2524発達障害のある子へのことば・コミュニケーション指導の実際 改訂第2版
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1 三つの役割と課題3りする.これは確信的ともいえる. 特に,友達がいない,少ない子どもは危険でもある.友達には,コミュニケーションをとり合う中で,相手の偏った考え方や意見のおかしさを指摘し,修正させる働きがある.友達がいないと,自分の考えの歪みを修正するチャンスがないことになる.友達がいない場合には,子どもが極端な考え方などを表現したら,大人はたしなめ,それ以上に誤った考えを深化させないような配慮が求められる.心理学では,このような歪んだ自己流の考えを「誤信念」ともいうが,これはことばが思考の道具に使われるからこそ,生じる信念ともいえる.3体の動きをコントロールする 一般的には,1歳後半から「くっく」「ぼうし」などと言うようになる.子どもの意味するところは,「靴をはく」や,「帽子をかぶる」であろうが,大人がいないところでも言ったりする.つまりは他者への要求とはいえない.この頃には,「手はお膝」と言うと,「オヒザ」と自分で言いながら,手を置いたりする.子どもはことばを使いながら,自分の身体に向かって話しかけ,指示を出しているといえる. ことばは体をコントロールする時にも使われる.例えば,スポーツの際に「大きく手足を上げる」「力一杯に手を振る」と内心で話しながら,体をそのように動かしたりする.逆に言えば,そのようにことばで指示しないと,はじめの頃は上手に体を動かせないともいえる. 多動の子は,ことばによる行動のコントロールが苦手とも考えられている.「手はお膝」と言われたすぐ後に立ち上がり,席を離れる姿にそのことがよく現れている. 動きの制御が苦手な子の場合,ことばかけには配慮が必要である.「立ってはダメ」「走るのはよくない」「しゃべってうるさい」と,注意や叱責をしがちであるが,これらはあまり有効ではない.なぜならば,子ども自身が自分の動きを制御する時に使うことばではないからである.「座る」「歩く」「口を閉じる(奥歯を合わせる)」とことばかけをした方が有効であろう.育てたい社会的感情①(湯汲英史)▶小学校低学年で始まる不登校 発達障害を疑われ,受診する不登校の子がいる.明らかな発達障害はないものの学校に行けなくなり,テレビゲームやパソコンに浸ったりする.低年齢で始まる不登校では,早い段階で登校を促さないと,そのまま家に引きこもる恐れがある. 今は,修学旅行や部活に参加する不登校の子がいる.好きな授業は出る子もいる.「パーシャル不登校」と呼んでいるが,こういう子は自分の好き嫌いをはっきりいうのが特徴といえる.▶二つの感情 喜怒哀楽は1歳台から分化するとされる.3歳前後になると,子どもは「好き,きらい」と言う.これらの喜怒哀楽や「好き,きらい」という気持ちは「個人的感情」とされている.感情には個人的感情とは別に「恥,罪,誇り,尊敬,自尊心」といった「社会的感情」と呼ばれるものがある.この社会的感情は2歳前後から芽生えはじめ,6歳前後では「恥ずかしい」という気持が強まってくる. 2歳前後の子どもは,何かができた時に,大人に向かって実に誇らしげな表情を見せたりする.2歳後半ともなれば,なぐり書きであっても「見て,見て」と大人にせがむようにもなる.ほめてもらいたい,認めてもらいたいという気持ちが,はっきりと伝わってくる.このような気持ちを社会的承認欲求という.この欲求のお蔭で,子どものがんばる気持ち,我慢する力なども含め,社会性が飛躍的に伸びるといえる.Column

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