12記録用電極について1⿎ポイント生体電位の直流に近い成分が記録対象である場合は,銀/塩化銀電極の使用が望ましい.交流成分が記録対象の場合は,静止電極電位の大きさは問題にならない.1)静止電極電位・分極電位・電極抵抗 電極を生体に設置すると,電極を電解液に入れたのと同様の現象が起こり,電極と生体との界面に電位差が発生する.これは,電極と電解液の界面で電気化学反応が起こり,電極と電解液の間に電位差が生じて反応が平衡状態となるものである.この電極と電解液との間に生じた電位差を静止電極電位(静止電位)という.例として,生理食塩液中の金属電極の静止電極電位を表1 1)に示す. 静止電極電位は,電極に電流が流れていないときの電位であり,電極が回路につながれて電流が流れると,その電位は静止電極電位から変化する.この静止電極電位からの変化を分極電圧という.電流を流しても静止電極電位からの変化がないものを不分極電極といい,銀/塩化銀電極が不分極電極に近い.一方,白金のように電気化学的に不活性な電極は,電流と分極電圧の関係が複雑で,電流の条件によっては大きな分極電圧が生じる.このような電極を分極電極という.この電流と分極電圧の比が電極抵抗(交流回路においては電極インピーダンス)である. 体表から生体電位を記録する場合,体表に設置した2個の電極間に生じる電位差を測定するので,仮に2個の電極が同じ金属であれば,それぞれの静止電極電位は相殺されて記録されないと考えられる.しかし,実際にはそれぞれの静止電極電位には幅があるため,たとえ同一金属であっても全く記録されないわけではない.したがって,生体の直流に近い電位を測定する場合には,静止電極電位が小さく安定している銀/塩化銀電極などを使用するのが望ましいが,実際の生体電位の記録では,その対象はほぼ交流電位であり,直流電位が対象になることは少ない.そこで増幅器の入力に直列にコンデンサを挿入することで,直流電位である静止電極電位を遮断し,交流成分のみを記録することが多い.このようなことから,実際の測定において静止電極電位の大きさが記録の問題になることはない.▶引用文献 1) 松尾正之,田頭 功: 生体用金属電極の電気的特性.医用電子と生体工学 8: 151-159,1970.(板倉 毅)飽和カロメル電極を基準にしたときの静止電極電位金属の種類静止電極電位金(Au)数100 mV(安定せず)白金(Pt)400~450 mV銀(Ag)10~-20 mVタングステン(W)-150~-190 mVステンレス鋼200~-160 mV銀/塩化銀(Ag/AgCl)70 mV〔松尾正之,田頭 功: 生体用金属電極の電気的特性.医用電子と生体工学 8: 151-159,1970.から抜粋〕表1検査技術の基礎Ⅱ
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