2533術中脳脊髄モニタリングの指針2022
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47A 総 論Ⅴ術中モニタリングの麻酔Ⅴ術中モニタリングの麻酔1)総 論a)鎮静薬とシナプス 多くの鎮静薬はおもにシナプスに作用して誘発電位を抑制し,投与量依存性に振幅や潜時に変化をきたす.よって刺激部位から記録部位の間にシナプスが介在すれば誘発電位は鎮静薬によって抑制され,その程度は投与量と鎮静薬の種類によって異なる.現在,全身麻酔で用いられる鎮静薬のなかで,静脈麻酔薬のプロポフォールが誘発電位を抑制しにくく,セボフルラン,デスフルランなどの吸入麻酔薬は抑制しやすいとされ,プロポフォールが脳脊髄モニタリング時の第1選択薬となっている.鎮静薬とおもな誘発電位の関係を表1に示す.脳幹聴覚誘発電位(brainstem auditory evoked potential:BAEP)を除いてほとんどすべての誘発電位は,鎮静薬によって抑制される.b)近接電場電位(NFP)と遠隔電場電位(FFP) 体性感覚誘発電位(somatosensory evoked po-tential:SEP)における第一次大脳皮質感覚野から記録される近接電場電位(near field potential:NFP)は,複数のシナプスを介しているため鎮静薬の影響を受ける.一方,脳幹を起源とする遠隔電場電位(far field potential:FFP)はシナプスを経由する回数が1回のみであり,脊椎・脊髄手術や大血管手術では鎮静薬の影響を受けにくく,術中脊髄モニタリングとして有用である.また,D-waveは皮質運動野刺激によって発生した電位が皮質脊髄路(corticospinal tract:CST)を下行し,脊髄前角でα運動神経にシナプスする前に脊髄から記録されるNFPで鎮静薬の影響を受けにくい.一方,MEPはα運動神経にシナプスし,神経筋接合部を経て被検筋の複合筋活動電位(compound muscle action po-tential:CMAP)として記録されるNFPであり,鎮静薬,さらには筋弛緩薬の影響を受ける.2)各 論a)プロポフォール プロポフォールは全身麻酔薬のなかで最も一般的に用いられる鎮静薬の1つであり,脳脊髄モニタリング時の鎮静薬の第1選択である.吸入麻酔薬と比べて誘発電位の刺激閾値が低く,麻酔から覚醒後の悪心・嘔吐のリスクが低い.プロポフォールは誘発電位を用量依存性に抑制し1,2),ボーラス投与した場合は一過性に血中濃度が上昇し,誘発電位を抑制することがある3,4)ので注意が必要である.プロポフォールの投与量は脳波(electroencephalogram:ECG)を利用した麻酔深度モニタによって調節し,麻酔深度を一定に保つようにする.麻酔深度モニタは低侵襲で簡便に麻酔深度をモニタリングできる有用なデバイスであり,脳波の生波形の観察も可能である.目標制御注入法(target-con-trolled-infusion:TCI)インフューザーポンプを用いてプロポフォールの血中濃度と効果部位濃度を予測しながら投与する方法があるが,脳脊髄モニタリング時は麻酔深度モニタの併用を推奨する.年齢,体脂肪などの影響を受けやすいこと,すべての患者に薬物動態パラメータが当てはまるわけではないことから麻酔深度が一定とならないことがある5)のが理由である.b)吸入麻酔薬 吸入麻酔薬(セボフルラン,デスフルラン)はプロポフォールと比べて誘発電位を抑制しやす鎮静薬とおもな誘発電位の関係薬剤名MEPSEPVEPBAEPセボフルラン↓↓↓↓↓↓→デスフルラン↓↓↓↓↓↓→亜酸化窒素↓↓↓→バルビツレート↓↓↓→ベンゾジアゼピン↓↓↓→プロポフォール↓↓↓→抑制強い↓↓,中等度抑制↓,抑制しない→MEP:運動誘発電位,SEP:体性感覚誘発電位,VEP:視覚誘発電位,BAEP:脳幹聴覚誘発電位表1

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