iv 術中脳脊髄神経モニタリングは全身麻酔下で脳や脊髄,末梢神経に障害を及ぼす危険性のある手術を安全に施行させるために開発された技術であるが,さらには手術を積極的に行う外科医にとってはより良好な結果を求め限界まで攻める手術を支えたり,引いては新しい手術法の開発をも支える,なくてはならない手術支援技術であるといえる.その基本的な基盤技術は日本臨床神経生理学会(以下,当学会)で長年の先達たちが研究を重ねて開発してきた電気生理学に基づくものであり,当学会では神経内科,精神科,整形外科,脳外科,小児科,麻酔科などの集学的な議論の上に成り立っているとともに,将来にわたり今後も研究が続くことになる.その恩恵に浴するわれわれは,その理論的な理解と技術的な習得に基づき,正しい方法での実施を実践し,現在の技術で獲得しうる最高の安全性を求めなければならない.そのためには,まず術者の信頼を獲得し,手術室でのチーム医療を構築するとともに,可能な限りfalse negativeを出さないことは当然であるが,false positiveも可能な限りゼロにすることを究極の目標としなければならない.すでに訴訟社会となっている米国では術中脳脊髄神経モニタリングを施行していなければ,術後麻痺が出現した場合に100%裁判に負ける時代となっており,手術を受ける患者も,術中脳脊髄神経モニタリングを施行しているかの確認はもとより,その内容やレベルまで確認して手術を受ける施設を選択している.近い将来,わが国でも同様な状態となる可能性が高く,実施者であるわれわれはさらに安全安心な術中脳脊髄神経モニタリングの実施が可能となる環境作りに努めなければならない. このような現状において当学会は2013年,術中脳脊髄モニタリング小委員会を設置し,同年から術中脳脊髄モニタリングセミナーの主催を開始している.その後,2018年から認定医制度を発足させ,移行措置による認定医の認定が開始された.手術の安全性を高めるため,すでに多くの手術担当科や麻酔科で委員会やセミナーが実施されている現状において,集学的な議論が可能な当学会のはたす役割は非常に大きく,術中脳脊髄神経モニタリングの標準化や技術レベルの向上を,現在実施しているすべての担当科において横断的に実現できるのは当学会をおいて他にないとの認識から,8年の年月を掛けて各科間の認識の違いの相互理解や,知識・技術の共有を少しずつ遂行し現在に至っている.本書は,その一環としてこれから術中脳脊髄神経モニタリングを開始する人たちから,現在実施中の人たちまで,全モニタリング関係者に向けての手引きとして発行するものである. 内容に関してはこれから術中脳脊髄神経モニタリングを開始する初心者でも十分に理解できることを目標に,わが国でも有数のモニタリング研究者が執筆しており,必ずやモニタリングを実施している皆様が教科書的に使用できる内容であると自負している.このなかで取り分け用語に関する問題は最後まで各執筆者間で意見の相違があったが,現状での最も標準的で国際的にも理解しやすい用語を選択したつもりである.将来を含め,この使用法が正しいかどうかは今後の研究者間での自然淘汰で決まるものと考えている.一例としてMEPという略語が本書に使用されているが,本書では大脳ま序 文
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