01975本項では,成人期のADHDの臨床症状ならびに経過について述べる.ADHDが男児に圧倒的に多い小児期の障害であるという従来のADHD概念のもとで,長らく省みられてこなかった領域である.わが国ではDSM-IVが発表(1994年)されてからしばらく経過した1990年代半ばに,多動が目立つ子どもの障害としてADHDが社会的に少しづつ認知されるようになった.さらに2002年の文部科学省による調査で,小中学校の通常学級に通う児童生徒のなかに,「発達障害」の症状をもつ児童生徒が6.3%と高率にいることが報告されたことをきっかけにして,ADHDの社会認知が急速に進んだ.ADHDの社会認知が日本より先行していた米国においても,ADHDは成人期以降もその症状が残存す 図1 成人×ADHDをキーワードにもつ論文数の年次推移(PubMed,2021年12月検索)るだけでなく,合併・併存症によるさまざまな生涯にわたる困難(支障)を招来する障害であることが社会的に広く認知されるようになるのは,今世紀に入ってからである.しかし日本ではADHDは小児期の障害であるという固定した社会通念はその後も長らく存続した.試みに医学論文検索データベースPubMedでADHD×Adultsというキーワードで検索してみると,本項執筆時(2021年12月)で12,353件の論文がヒットする.論文数を発刊年別に示したのが図1である.グラフ中にDSM-IIIとDSM-IVの発表年を示してあるが,グラフの動きから成人のADHDが医学的に広く認知されるようになってから,まだ20年くらいしか経過していないことが理解できる.つまり成人の1,200900600300DSM-IVDSM-III19791983198719911995199920032007201120152019(年)42はじめに成人ADHDの医学的受容の歴史第2章 ADHD2ライフコースに沿った臨床症状とその経過 d 成人期
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