2534発達障害の診断と治療 ADHDとASD
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▒2 ライフコースに沿った臨床症状とその経過……d 成人期第2章 ADHDADHDは医学的,心理学的にはきわめて新しい存在なのである.グラフ上にほとんど論文が示されていない1976年にいち早く成人期のADHDについて報告した論文がある.カナダのモントリオール小児病院のHechtmanらは,小児期に多動症と診断した35人の子ども(男児34人,女児1人)の症状経過を10年間追跡調査し,17歳から24歳になった青年期~成人前期の症状や機能障害について報告した1).多動より不注意に重点が置かれたDSM-IIIの発表(1980年)より以前であり,ADHDは1968年発表のDSM-IIのなかでは「子どもの多動反応」と規定されていた時代の論文である.対象の35人は,著者らのクリニックで10年前に多動症と診断された当時は6~12歳の子どもであった.症状は「家庭と学校における持続した多動症状」とあり,現在の診断基準では,混合タイプと多動・衝動性優位タイプに当たると考えられる.10年後の面接による評定で明らかになった残存症状は,落ち着きのなさ(restlessness)と自覚症状としての落ち着かない感覚であった.さらに「内省心が弱く」「価値システム(善悪判断能力など)の形成不全」「低い自尊心」などの特徴があった.心理テストをすると,形合わせ(figure matching)や埋没図形検査で,25人の対照に比べて有意に成績が悪かった.学校からの除籍(退学)は,多動群で9人(n=32)であるのに対し,対照では1人のみ(n=24)であり有意に多く,高校での進学指導の担当者への成績と社会性についてのアンケートでは,多動群の印象が対照群より有意に悪かった.警察の記録による軽犯罪(薬物乱用,窃盗,暴力,交通違反)では,薬物乱用がむしろ対照者で多く,窃盗が多動群で多い傾向があるくらいで大きな差はなく,直近の5年間では有意差はなかった.Biedermanの症例報告に先立ち,Spencerらは先行研究の系統的なレビューを行い,成人のADHDは確かな存在であると結論している3).さらにFaraoneらは,2004年に成人ADHDという診断を実際にしている臨床医100人(精神科専門医50人,一般臨床医50人)から,854人分(精神科医受診537人,一般臨床医受診317人)の病歴の提供を受けて,その詳しい臨床症状と病歴の分析を行った4).これは論文の前述のように,1970年代にはすでに成人のADHDが知られており,また1978年には米国・アリゾナ州のScottsdaleで成人のADHDについての最初のカンファレンスが開かれたが,医学界ではほとんど問題にならなかったという.また1992年には初めて成人のADDについての一般書が販売されているが,成人ADHDについては1990年代になってもあまり広がらなかった.1998年になってBiedermanは55歳のビジネスマンで最終的にADHDと診断された男性の症例検討を行っている2).症例検討会のやりとりのなかで,参加した精神科医から「ADHDの特徴を統合失調症と比較してほしい」「躁病や軽躁病の患者と鑑別できるのか?」といった質問が出され,Biedermanがそれに答えるとともに,「成人のADHDについては懐疑的な態度を取るものも多く,論争に決着がついていない」「成人のADHDの有病率は2%」などと述べている.日本よりADHDの医学界での認知が進んでいる米国でさえ,20年前までは,成人のADHDの認識はこの程度だったのである.しかし同時期,Biedermanをはじめとするマサチューセッツ総合病院の研究グループ(Biederman,Faraone,Bernardi,Wilens,Spencer)による精力的な研究により,成人ADHDの実態が明らかになりつつあったのである.43成人のADHDの再認識

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