2534発達障害の診断と治療 ADHDとASD
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▒1 障害概念の歴史的経緯と今日の診断分類第3章 ASKanner以降,自閉症が精神医学的な診断体系のなかでどのように扱われてきたかについて,国際的な診断体系ともなっている米国精神医学会(APA)が作成している「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)」での位置づけを通して振り返る.DSM-I(1952)4),DSM-II(1968)5)において,自閉症はまだ精神病カテゴリーに含められ,統合失調症の一亜型という位置づけであった.ちょうど1950年代から1960年代にかけての米国の精神医学界においては,精神分析学派が勢力をもっており,心因論が優勢であったという6).一方,英国では1960年代から1970年代にかけて,児童期の精神病(自閉症とschizophrenia)に対して疫学的アプローチによる研究が取り組まれた.その際,子どもの「まわりをきょろきょろ見まわしたり,あたかも声を聴いているかのような仕草」から幻覚状態を推測するというそれまでのやり方から,本人による説明がない限りは幻覚状態と推測しないという徹底した行動記述を基にした定義が用いられた7).そうした方法論で行った研究8)の結果,3歳未満に発症した「精神病」の子どもたちに幻覚の証拠は確認できないことが明らかになり,自閉症は精神病から切り離された.これ以降,自閉症児の言語や行動の異常の背景を,情緒的反応や幻覚を想定する代わりに,自閉症に特徴的な言語障害や認知障害の観点から説明しようとする実証的研究へと大きなパラダイムシフトが起きた.そして自閉症の基本特性は,①言語発達の異常,②反復的儀式的行動,③対人関係の障害,の3点に集約された9).こうしたエビデンスに基づく概念の変化を反映して,DSM-III(1980)10)で初めて自閉症は精神病のカテゴリーからはずれ,広汎性発達障害(pervasive developmental disorders: PDD)という新しいカテゴリー下に,幼児自閉症として位置づけられた.その診断基準は,30か月までの発症,対人反応性の広汎な欠如,言語発達の明白な障害,話し言葉を有する場合は,即時および遅延反響言語,暗喩的言語使用,代名詞の反転などの特異なパターンがあること,環境のさまざまな側面に対する奇妙な反応(例:変化への抵抗,生物/非生物の物体への異常なまでの興味や執着),schizophreniaでみられる妄想,幻覚,連合弛緩,支離滅裂がないこと,であった.発症年齢の上限を30か月としたため,狭DSM-IV-TR (2000)広汎性発達障害(自閉性障害,Rett障害,小児期崩壊性障害,Asperger障害,特定不能の広汎性DSM-5 (2013)表1 DSMの改訂に伴う自閉症の位置づけの変遷DSM-I (1952)DSM-II (1968)DSM-III(1980)DSM-III-R (1987)広汎性発達障害(自閉性障害,特定不能の広汎性発達障害)DSM-IV(1994) 統合失調性反応小児期型統合失調症小児期型広汎性発達障害(幼児自閉症,小児期発症の広汎性発達障害, 非定型広汎性発達障害) 広汎性発達障害(自閉性障害,Rett障害,小児期崩壊性障害,Asperger障害,特定不能の広汎性発達障害)発達障害)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害115DSM-III以前概念と分類の変遷(表1)DSM-III:発達障害としての位置づけD

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