2537行為プロセス依存症の診断・治療と再発防止プログラム作成の手引き
17/20

141第4章 クレプトマニア(窃盗症)の診断・治療と再発防止プログラム 2020年以降の傾向として,レジ袋の有料化によってマイバッグ万引きといわれる犯行が増えたといわれる.さらに同年に,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で死角が増えたこと,マスク姿で買い物客の個人特定が難しくなったことなどが,万引き増加を促進しているようである.②常習窃盗犯の再犯率 わが国では,近年,全般的に犯罪が減少傾向にあるなかで,窃盗事犯の再犯率の高さが注目されている.『平成26年版 犯罪白書』は「窃盗事犯者と再犯」を特集しているが,窃盗犯罪の特徴として,一般刑法犯認知件数の大半を占め,窃盗事犯者の5年以内累積再入率(各年の年末までに再入所した者の累積人員の比率)が覚せい剤取締法違反者と同程度に高い,と報告している2).『令和2年版 犯罪白書』によると,2018年度の統計で,刑法犯全体の検挙人員17万2,693人に占める同一罪名5犯以上の件数は1.7%であるが,罪名別にみると窃盗検挙者8万3,331人のなかで窃盗前科5犯以上の前科者は,2.9%と最高値を占めている3).窃盗累犯者に司法が対処し切れていないことは明白である.③成人万引き常習の原因としての窃盗症 一般成人や社会人,職業人,主婦,高齢者などによる常習万引きの背景を探ると,窃盗以外の反社会的行為がなく,自らの窃盗衝動を制御できず,悩んでいる一群の人々がいることがわかる.リスクに見合わない少額の万引き行為を繰り返しているのが特徴である.これらの常習窃盗は犯罪行為ではあるが,窃盗症という精神障害による症状行動でもある,と考える専門家が増えてきた.ちなみに,DSM-5は,万引きで逮捕されたことがある人の4~24%に窃盗症がみられるという数値を挙げている1).赤城高原ホスピタルにおける常習窃盗患者治療体験 赤城高原ホスピタル(Akagi-kohgen Hospital:AKH)は,日本のほぼ中央,群馬県渋川市に1990年に開院された111床(開院当初は107床)のアルコール・薬物依存症専門病院である.筆者は,AKHの開院時以来,院長職にあるが,現在,毎週金曜日には,東京都中央区の精神科診療所で外来診療を行っている.その京橋メンタルクリニック(Kyobashi Mental Clinic:KMC)は,東京2

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る