2537行為プロセス依存症の診断・治療と再発防止プログラム作成の手引き
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ii序にかえて 依存症という言葉が世間に認知されるようになってきてから久しいですが,そもそも依存症とは何であるのか? 単に依存するということとはどう違うのか? 最初にこのことから説明したいと思います. 〈依存〉という言葉の定義は「他のものをたよりとして存在すること」(広辞苑)です.これを言葉通りに捉えれば世のなかのあらゆる生物は何かに依存していることになります.人間なら生まれたばかりの赤ん坊は誰かに助けてもらわなければ生きてはいけません.動物も他の生物を食べることによって命を繫いでいます.植物すらも水や太陽の光がなければ生きていくことはできません. では〈依存〉と〈依存症〉にはどういう違いがあるのでしょうか?〈依存症〉という言葉の定義は「あるものに頼ることをやめられない状態」(広辞苑)です.しかし,これを言葉通りに捉えると「やめられない状態」の何が問題なのか? ということになります.世のなかには多くの対象に多くの愛好家がいます.あるお菓子が大好きで毎日のように食べ続ける人,あるスポーツが大好きで毎日のように練習や試合を続けている人,カラオケが大好きで毎日のように歌い続けている人,温泉に入るのが大好きで温泉地に移住して毎日入り続けている人,研究が大好きで毎日,実験室に入り浸りで研究に没頭している人,等々.これらは確かに依存症といえる状態かもしれません.しかし,それで何か問題があるのでしょうか? 何も問題が生じてなければ,これらの状態が続いていてもよいのではないかと考えられます. では,医学的に〈依存症〉と考えられるのはどのような状況なのでしょうか? それは〈身体的〉〈精神的〉〈社会的〉のいずれかまたは複数の部分で〈困ったことになっている状態〉です. たとえば,飲酒愛好家の方がいたとします.晩酌が楽しみで毎日飲んでいます.本人はその習慣を止められません.しかし定期健診では身体的に問題なし,気分も毎日上々,職場でも家庭でも円満に過ごせている.このような方は医学的には当然,依存症とはいえませんし,治療の必要もないでしょう.一方

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