L‒錐体もしくはM‒錐体の欠損があると,赤と緑の感覚信号が作られなくなり,1型色覚と2型色覚を合わせて「先天赤緑色覚異常」という.3型色覚はS‒錐体の欠損で,青と黄の感覚信号が作られなくなり,「先天青黄色覚異常」ともいう.b.先天赤緑色覚異常と先天青黄色覚異常 先天赤緑色覚異常,先天青黄色覚異常のいずれも色覚以外の視機能は正常であり,色覚異常の程度も生涯変わることはない.先天色覚異常で強度異常の場合のシミュレーション画像を図1に示す.赤緑の感覚が弱いという点においては1型色覚と2型色覚は見えかたに大きな変わりはない.3型色覚においては赤緑が正常に感知されるので,1型色覚,2型色覚に比較して日常では気がつきにくいと思われる.c.亜型の色覚異常 中には亜型の錐体を合わせもつ場合があり,1型色覚ならM‒錐体とM’‒錐体,2型色覚ならL‒錐体とL’‒錐体である.この場合はS‒錐体を含め3種類の錐体をもつことになるので「異常3色覚」という.つまり,1型色覚,2型色覚がさらに2色覚と異常3色覚に分類され,「1型2色覚」,「1型3色覚」などという.異常3色覚の場合は,M‒錐体とM’‒錐体,またはL‒錐体とL’‒錐体の反応の差から赤と緑の感覚信号ができるが,正常に比較してその信号は弱いと考えられる.したがって先天赤緑色覚異常には程度のバリエーションがあり,一般に異常3色覚よりも2色覚のほうが程度が強い. 3型色覚には2色覚,異常3色覚という区別はないが,程度の強弱はみられる.d.錐体の全欠損 錐体機能すべてを欠損している場合があり,これを「杆体1色覚」という.錐体が働かないので全色盲となり,白黒のグラデーションの世界と考えられる.また,0.1~0.2程度の低視力で,眼振,羞明,昼盲(明所での視力が暗所での視力より悪い)がみられる.同じ全色盲でもS‒錐体のみが働く「S‒錐体1色覚」がある.錐体は2種類以上ないと色の感覚信号に変換できないので,その症状は杆体1色覚と似ている.S‒錐体が存在しているため,杆体1色覚よりも視力は良好で0.3~0.4程度が多い.第Ⅰ部●知っておきたい小児の眼の診かた・考えかた色覚異常強度の見えかたのシミュレーション[色覚体験ツール「色のシミュレータ」(浅田一憲氏開発)で変換] 日常臨床で遭遇する色覚異常のほとんどは先天赤緑色覚異常である. ・ 先天赤緑色覚異常:男性の5%(20人に1人),女性の0.2%(500人に1人)にみられる.遺伝形式はX連鎖性遺伝であり,女性は保因者となり,その頻度は10%である. ・ 先天青黄色覚異常:稀であり,その頻度は報告により様々で13,000~65,000人に1人とされ,遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝である. ・ 杆体1色覚:有病率は0.0025~0.0055%で,遺伝形式は常染色体潜性(劣性)遺伝である. ・ S‒錐体1色覚:10万人に1人以下とされ,遺伝形式はX連鎖性遺伝である.16 色覚異常121 図11型色覚と2型色覚の見えかたは非常に似ている.3.先天色覚異常の遺伝と頻度
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