I2FAやDCは汎血球減少を呈し,DBA,CSA,CDAや先天性好中球減少症の多くは,単一細胞系列のみの減少を示す.しかし,なかには,初診時には単一細胞系列の血球減少であったものが,経過とともに2~3系列の血球減少に移行したり,骨髄異形成症候群や急性白血病に移行したりすることもあるため,注意深い経過観察が必要である.1.はじめに遺伝性骨髄不全症候群は,骨髄不全,外表の先天異常,発がん素因を特徴とする遺伝性疾患の総称であり,赤血球などの単一細胞系列が障害される疾患と複数の細胞系列が障害されて汎血球減少を呈する疾患がある.おもな疾患として,Diamond︲Blackfan貧血(DBA),Fanconi貧血(FA),遺伝性鉄芽球性貧血(CSA),congenital dyserythropoietic anemia (CDA),Shwachman︲Diamond 症候群,先天性角化不全症(DC)や先天性好中球減少症などが知られている.最近の分子生物学の進歩により,これらの疾患の原因遺伝子が次々と明らかにされてきた.わが国においても,DBAやFAなどでは半数以上の症例で原因遺伝子が同定されるようになった.その結果,遺伝子診断により臨床的な診断が誤りであった症例が複数存在することも明らかとなった.厚生労働省難治性疾患政策研究事業「先天性骨髄不全症研究班」(伊藤班)では,これまでの班研究の成果を医療現場に還元するために,現状における最新の知見も整理し,「先天性骨髄不全症診療ガイドライン2017」を作成した.しかし,その後の5年間でこの分野では大きな進歩があり,2022年度より新たに発足した「遺伝性骨髄不全症研究班」(伊藤班)では,「遺伝性骨髄不全症診療ガイドライン2023」を作成し,日本小児血液・がん学会の承認を受けた後,書籍として出版することにした.なお,先天性血小板減少症は,AMED「先天性血小板減少症研究班」(石黒班)で独立して研究が行われているため2023年改訂版には含まれていないが,遺伝性骨髄不全症候群と鑑別がむずかしい先天性溶血性貧血を新たに加えた.2.本ガイドラインの基本的な考え方,記載方法遺伝性骨髄不全症候群のうち,最も頻度が高いDBAでも日本においては年間わずか10人前後,次に多いFAは5~6人であり,その他はさらに少数である.そのため,遺伝性骨髄不全症候群の診断,治療の経験が豊富な医師は非常に限られている.遺伝性骨髄不全症候群は小児期に診断されることが多い.しかし,成人期に症状が顕在化して内科領域で診断される症例が報告されたり,成人への移行期医療が問題となったりするなど,内科領域の血液専門医も遺伝性骨髄不全症候群についての知識が必要とされる.本ガイドラインは,エキスパートがどのような診断・治療・フォローアップをしているか,一般の小児科医や内科医にも理解しやすい内容にするために,診断フローチャートを前面に出し,できるだけ図表化等も行い,具体的な臨床例や写真(骨髄・末■血等)を用いてビジュアル化に努めた.また,実践的なガイドラインにするため,指定難病の診断基準との整合性が取れる形にてアップデートし,一般小児科医や内科医への啓発を目指し,連携・フォローアップも含めた内容とした.本ガイドラインが,血液の専門医ばかりでは本ガイドラインについて
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