2560向精神薬処方ストラテジー マスト&ベスト
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図1 ストレスと熱産生154ストレス延髄縫線核褐色脂肪組織活性化熱産生第2章 各論 疾患編ストレス反応では,筋肉のれん縮が生じることによって発熱が認められます.慢性疲労症候群の微熱はこの反応が原因と説明されていた時期もありましたが,筋肉のれん縮が常時続くことはあり得ないこと,その発熱量の温度上昇が続けば高熱となること,そもそも慢性疲労では力を入れようにも入らないため筋肉の収縮は認められないことから否定されました.また,免疫系の異常が原因だとすると炎症反応では,体温の変化は大きく,微熱が続くという病態とは合致しないことからも免疫系が原因ではありません.つまり,ストレスによって体温中枢にトラブルが生じているということになります.ストレス反応の中心的な役割である視床下部はストレスを感知すると,その刺激を興奮性のシグナルとして延髄縫線核に伝達します.さらに支配下の交感神経に刺激された褐色脂肪組織(褐色脂肪細胞)はその機能を活性化させ熱産生が行われます(図1).筋肉のれん縮や免疫反応での体温上昇が2〜3℃となるのに対して,褐色脂肪組織の熱産生による体温上昇は0.5〜1.5℃ほど,つまり微熱です.また,高度な身体的ストレス(熱傷)を受けたケース(患者)の皮下脂肪が褐色化していることや,心理学研究でストレスを緩和するビデオを見た集団では褐色脂肪組織へのグルコースの集積が減少する(=活性が低下する)ことが報告されていることからも,慢性疲労症候群の微熱の原因はストレスであるといえます.また,慢性疲労症候群には薬物療法が効果することも多く,ビタミン(C,B12)の投与も行い,この治療後3〜4カ月の経過観察でも改善がない場合や睡眠の質の不良や不安症状を呈する時にはSSRIの処方を試みます.

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