2560向精神薬処方ストラテジー マスト&ベスト
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1201980年代後半頃まで日本の精神医学では,精神疾患の分類や鑑別診断には,ドイツを中心としたヨーロッパの精神医学の体系を基礎とした考え方が主流でした.〓〓〓不安障害不安障害の総論その考え方は,精神疾患をその発生の原因によって分類するという考え方です.明確な原因は特定できないものの(遺伝的な)素因が原因と考えられる精神疾患を内因性,性格や環境などによる心理的要因が原因と考えられる精神疾患を心因性,疾患や負傷によって引き起こされたと考えられる精神疾患を外因性とした分類です.このような単純明快な分類で診断が可能であったのは,当時の社会背景が関係しています.現在でも精神疾患に対してのスティグマがあるのですから,50年以上前の社会通念では,差別的であり,精神科を受診するというハードルは高かったであろうことが容易に想像できます.ですからその当時に治療を受けに精神科医の前に現れるという時点で,鑑別対象となる患者は,生活への支障が生じるほどの著しくかつ強い症状を有する典型例であったと考えられることからも,上記のような考え方で十分に鑑別診断は可能だったのです.内因性精神疾患は,統合失調症,うつ病,双極性障害に分類され,また外因性精神疾患についても,新しく加わった精神疾患はほとんどないため,これらの分類における原理方法論は現代でも通用します.ところが,近年の社会的ストレス増加の背景や,精神科受診に対する敷居の低下,精神科医療の治療対象の拡大などにより,軽症精神疾患が臨床現場に増加していくと,従来の非精神病としての性格や環境に対する心理的要因というくくりの精神疾患=「神経症」の分類では,分類しきれないメンタル不調のほうが多くなり,従来の原理方法論が通用しなくなってきています.さらに分子生物学的手法での研究結果から,性格や環境へ10第2章 各論 疾患編0第0章 〓〓

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