156おもな鑑別:蜂窩織炎,急性関節周囲炎(腱鞘滑膜炎)・関節炎,複合性局所疼痛症候群(CRPS)第3章 上肢のむくみ発熱を伴う急性の手背発赤・腫脹と手指・手関節屈曲困難から,蜂窩織炎が疑われた.外傷や基礎疾患のない若い女性が,前腕・手背の蜂窩織炎をきたすことには違和感があり,身体所見では手関節や手指屈曲にても疼痛が強いことから,腱鞘など関節周囲の炎症をきたしていることが示唆されたため,病歴を再度確認した.「6日前,左足関節痛が出現し,2~3日で軽快した.来院3日前,右膝痛と腫脹にて歩行困難となったが,来院前日に軽快した.」移動性関節炎を疑わせる病歴が加わった.追加の問診で,性交渉歴や性感染症(sexually transmitted infections:STI)の既往について確認したが,本人は否定していた.片側手背腫脹と発赤から,蜂窩織炎として一発診断してはいけない.先行する表皮の傷がないとき,手の蜂窩織炎は考えにくい.腫脹の原因は皮膚自体の問題なのか,さらに深部組織に関連した炎症(関節周囲,関節内,骨病変)であるのか注意深く診察する.急性単関節炎または急性移動性関節炎(多関節炎)の鑑別となる.若い患者層では,化膿性関節炎のなかでも淋菌性関節炎を思い浮かべなければならない.結晶性関節炎(痛風・偽痛風)も関節に限局せず関節周囲炎が目立つ場合がある.移動性関節炎では,溶連菌感染後の関節炎,慢性疾患の初期(全身性エリテマトーデスの初期の関節炎など)があがる.複合性局所疼痛症候群(CRPS)は,外傷などをきっかけとして交感神経の過剰反応や炎症性サイトカインの過剰産生が生じ,急性期は発赤・腫脹と痛みが生じる.まず考えること鑑別の流れ診断淋菌性関節炎
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