2530〜40年前までは骨盤位分娩で生まれた子どもに典型的な成長ホルモン分泌不全性低身長症が多くみられました.成長ホルモン分泌不全に加えて,甲状腺ホルモンの分泌低下や性腺刺激ホルモンの低下により思春期発現を認めず,二次性徴を誘導する治療を行うこともありました.現在は骨盤位分娩の場合には帝王切開で出産するケースが多いので,このような典型例はほとんどみられなくなりました.この成長ホルモン分泌不全性低身長症は特発性と器質性に分類されます.特発性は明らかな原因が見つからない場合に使われる診断名であるのに対して,器質性は脳下垂体の近くに発生した腫瘍などによって脳下垂体が破壊されて成長ホルモン分泌が低下するようなときに使われる疾患名です.脳下垂体ではさまざまなホルモンが作られていますので,脳腫瘍などの器質性では低身長以外に他の脳下垂体ホルモンの分泌が低下していることを示す症状(全身倦怠,不活発や多尿など)が出ることもあります.このような場合には複合型下垂体機能低下症(すべての下垂体ホルモンが分泌低下となれば汎)とよばれます.さらに脳腫瘍が大きくなれば脳下垂体の近くに位置する視神経を下圧迫して視野狭窄をきたします.身長の伸びが成長曲線上にあらかじめ引かれているラインを横切って下のほうにずれていく場合には注意が必要です(成長曲線1).特に「特に理由なく体重が急に減った」,「元気がなくなってきた」,「目つきがおかしい」(視野障害を疑わせます),「視力が低下した」ことは脳下垂体,あるいはその近くに病変が存在することを示唆します.乳幼児期に成長ホルモン分泌が低下すると血糖上昇が不十分で,低血糖症状を起こすこともあります.お腹が空いた時間帯になると興奮するなどの症状で気づくことがあります.成長速度が低下してきたことに加えて体重が増加しない,あるいは減っているというときはネグレクトによる成長障害も考えておかねばなりません.低栄養や心理的なストレスによって器質性成長ホルモン分泌不全性低身長症と同じような成長のしかたを示すことがあるからです.一方で成長ホルモン分泌不全性低身長症かどうかの区別が難しい場合もあります.低身長ではあるが成長速度に大きな問題のない(成長曲線のラインとほぼ平行に成長している)ケースです.このときに確認しなければならないのが親の身長です.親の身長が低ければ子どもの身長も低めになります.これはいわゆる家族性低身長といわれるものです.成長障害を疑われて受診された場合,成長曲線を描きそれを評価することが最初の仕事になります.低身長の程度とその推移を成長曲線上で確認します.さらに骨の成熟状態(骨年齢といいます)を手部のX線写真で把握します.成長ホルモンの分泌が低下しているときは骨の成熟が遅れますので,骨年齢は暦年齢よりも若くなります.成長ホルモンは常に一定の量が血液中に存在しているわけではありません.日中は分泌されていない時間帯のほうが多く,入眠直後から大量に分泌されます.したがって昼間の外来で1回血液を採って成長ホルモンを調べても正常に分泌されているかどうかはわかりません.そこで代わりに調べるのがインスリン様成長因子1(insulin-like growth factor 1:IGF-1)という物質です.これは成長ホルモンの分泌状態と比例しますので,成長ホルモン分泌不全かどうかを推測するのに役立ちます.成長ホたいのうていしょうすい垂機体能低症か下かきはん 第2章 からだの病気と成長曲線 ● ● ●2.こんなサインに注意しよう3.病院ではどのような検査をするか
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