第6章126学校は何を目的として存在しているのでしょうか.教育基本法の第1条で教育の目的が定められており,「教育は,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない.」とされています.すなわち,教育は「心身ともに健康な国民の育成」を目指すものであり,学校における保健活動は教育の目的を果たすうえでその基盤になるものといえるでしょう.教育における健康維持というのはこのように組織上の使命でもありますが,それ以上に子どもの健康は親や祖父母などの近親者のみならず,全国民の願いであると捉える必要があります.教育関係者は学校管理という側面からそれを下支えし,医療関係者は医学という視点からそれを支援しています.特に子どもが学校で過ごす時間は年間1,200時間と家庭に次いで長いので,学校保健が子どもの健康の維持・増進という第一次予防の観点から重要な場であることは論を待たないでしょう.一方,二次予防や疾病という観点からは学童期をどのように捉えることができるでしょうか.世代別の疾病発症を保健統計の一つである受療率から検討してみます.厚生労働省が実施している患者調査において人口10万人当たりの推計患者数(受療率)が年齢階級別に調査されています.2020年の受療率は,若年世代では0歳が最も高く7,296人です.次いで1〜4歳6,327人,5〜9歳4,816人,10〜14歳3,313人,15〜19歳2,178人と続いており,以降の成人世代に比して学童期は受療率が低いことがわかります.すなわち,一生の間で最も医療機関での受診の機会が少ない世代です.このことは病院で活動する医療関係者にとって学童期は子どもに接する機会がほかの世代に比して少ないことを意味します.従って,疾病の第二次予防,すなわち疾患の早期発見・早期治療を進めるためにも医療と学校保健との連携が必要です.このような連携をすすめるためには組織の特徴を理解しておく必要があります.学校における活動は多岐にわたります.主たる活動は教育であることは当然として,学校保健に加えて,学校安全,学校体育,学校給食のすべてが法律や政令・省令・告示・通達により定められ,国→都道府県→市町村→学校という階層のなかで運用されています.このような流れを医療関係者は理解しておかねばなりません.逆にいえば養護教諭や学校関係者は医療関係者の多くはそのような流れを理解していないと捉えなければなりません.連携を深めていくときには組織の違いを認識したうえで接点を広げ,進めていく必要があります.子どもの健康を維持するために医療関係者と教育関係者をつなぐ存在が養護教諭と学校医でしょう.養護教諭は医学の知識を身につけて学校という立場で保健活動を実践しています.学校医は教育委員会からの委嘱を受けて,医学の専門家という立場から学校での保健活動を指導する立場となります.ただ,養護教諭は医学の知識を有するとはいえ,大多数が医療関係者ではありません.また学校医は非常勤職であることに加えて,小児医学領域の専門家であるとは限らず,実践力に限界があることも事実です.そのような観点から,学校医と養護教諭を医師会,あるいは日本学校保健会のような組織が支援することが学校保健を推進し,充実させるうえでは欠かせません.● ● ● A 学校における保健活動 学校健診と成長曲線A 学校における保健活動
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