2580小児代謝疾患マニュアル 改訂第3版
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11[この章はロンドンのShamima Rahmanとの共同執筆] 細胞内のATP供給に影響する異常症は,非常に多くの機能を妨げるもので,特に脳・骨格筋・心・肝・腎・網膜などエネルギー所要量の大きな器官で顕著に現れる.罹患者には,神経・筋症状をはじめ,個々に異なる器官系に関わる症状が,様々な組み合わせで現れる.それはときに,特定の遺伝的欠損の発現が組織特異的であることによって説明される場合もある.疾患の経過も様々だが,急激に進行する場合が多い.臨床像の一部は脳性有機酸尿症(93ページ)と重複する.少数だが,単一器官(例.筋・心・肝・脳)だけに影響するケースもある. 一次性のミトコンドリア異常症は,「酸化的リン酸化による化学的エネルギーの産生に直接関わる酵素ないし酵素複合体の遺伝的異常症,およびミトコンドリア構造・機能に関するその他の障害」と定義しうる.これには,呼吸鎖とATP合成酵素の異常症だけでなく,ピルビン酸代謝とKrebs(トリカルボン酸)サイクルの異常症も含まれる.個々の異常症の間には,臨床的特徴・病態生理・遺伝学上かなりの重複がみられ,それは一部のタンパクが数種類の酵素複合体に共用されていたり,蓄積する代謝物が別の酵素群に対して阻害効果を示すためである.酸素欠乏・遺伝的障害・阻害物質などが呼吸鎖を止めると,NADH/NAD+比を上昇させ,それがさらにピルビン酸脱水素酵素や,Krebsサイクルを含む中間代謝酵素群を阻害することになる.ピルビン酸代謝・Krebsサイクル・クレアチン代謝の生化学 ピルビン酸の大半は細胞質での解糖系から作られ,乳酸(嫌気的解糖の最終産物)あるいはアラニン(対となるアミノ酸)との可逆的な変換が可能である(127ページ参照).ピルビン酸は,非特異的な電位依存性アニオンチャネル(VDAC)であるポーリン(図示していない)によってミトコンドリア外膜を通過し,次いでミトコンドリアピルビン酸キャリア(MPC,MPC1・MPC2がコードする2種類のサブユニットから成る)によって内膜を通過する.MPCはケトン体をミトコンドリアから運び出すのに152  第Ⅱ章 各代謝経路と異常症11エネルギー代謝異常症

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