2581内分泌外来診療Q&A
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〈p.31〉)とよばれる特徴的な身体所見から疑われ,早期に診断に至ることも多いです.単純性肥満では,体幹肥満はもちろん,加えて四肢もむっちり脂肪が沈着し,太くなるのが一般的です.それに対し,クッシング徴候では,体幹肥満に比し,近位筋萎縮(筋力低下も伴います)が生じ,上腕,大腿が不自然に細い,いわゆる中心性肥満を呈します.それ以外に,顔面(頬部)紅潮を伴う満月様顔貌,肩の脂肪沈着が著しい野牛肩,赤色皮膚線条,血管の脆弱性による皮下出血斑なども生じます.成人GH分泌不全,加齢男性性腺機能低下症候群では,うつ,易疲労感などを呈しますが,症状からの類推は困難なことが多いです.多囊胞性卵巣症候群は20%で肥満を呈しますが,多毛は23%,男性化は2%と実際にはそれほど多くなく,月経異常から産婦人科で診断されることがほとんどです.以上から,内分泌性肥満を鑑別するための検査として,外来の朝一番で,甲状腺機能(〈fT3,〉fT4,TSH),コルチゾール,ACTH,GH,IGF-1,男性では,総テストステロンを測定します.この後の診断は各章の各論を参照いただきますが,それぞれのホルモン値の軽度の増加あるいは減少がただちに内分泌性肥満を意味するかについては総合的な判断が必要で,異常値が得られた場合は,内分泌代謝科専門医への紹介をお薦めします.第1章  症状から疑う内分泌疾患今後,肥満症治療における薬物療法と外科療法の使い分けはどうなるのでしょうか.ハードルの低い薬物療法が大きく伸びることは疑いの余地がありません.その一方で,治療中断によるリバウンド,生涯にわたる高額な薬剤費用,消化器症状などは大きな課題です.減量効果は依然まさっていること,生涯にわたる費用対効果では優位なことから,外科療法の有用性も決して少なくはならないと個人的には考えています.むしろ,治療困難例こそ,薬物療法 vs. 外科療法ではなく,薬物療法+外科療法の発想が求められると思っています. 図1  腹腔鏡下スリーブ状胃切除術患者さんには,胃をバナナのように細く,100 ccまで縮小します,と説明.01●肥 満3Column 肥満症治療薬拡充時代の減量・代謝改善手術2023年11月22日には,わが国においてGLP-1受容体作動薬のセマグルチド(ウゴービⓇ)最大量2.4 mgが肥満症に対する保険適用となりました.2023年11月からは米国においてGIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(ZepboundⓇ)最大量15 mgが肥満症に対する保険適用となっています.肥満症は患者さん個人の責任のみに起因するものでなく,薬物を含めた積極的な治療対象であるとの理解が浸透したことが背景にあります.一方,胃の大弯側を切除する腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(図1)も,2014年から保険適用となり,わが国では年間1,000例近くが施行されるに至りました.以前は減量手術とよばれていましたが,糖尿病への治療効果が著しく,現在は「減量・代謝改善手術」が学術用語となっています.

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