b世界に拡がる術後回復促進策第1章 高齢者の術後回復促進のためにど評価していないこと,医療技術が高いため現在の管理でも周術期の合併症が少ないこと,などの理由から積極的な術後回復促進策の導入に至っていない現状がある.わが国でも近年は,術後回復促進策を導入する医療施設も増加してきており,今後の医療費算定など国の支援に期待したい.その後,北欧において消化器外科手術を対象とした促進策が発案された.2005年にFearonらは,結腸直腸開腹手術における促進策としてERAS(イーラス,Enhanced, Recovery After Surgery)プロトコルを公表した3,4).2001年にFearonらが中心となり,ERAS study group が結成され,2010年にはERAS SocietyとしてERASプロトコルを全世界に発信する団体となった.現在では,欧州,米国,アジアなど20か国でERAS Societyの活動が行われている.ERAS Societyは,毎年のシンポジウムのほか,臨床研究の成果を集めてガイドラインを作成し論文化を行い,ウェブサイト(https://erassociety.org/)において無償で閲覧を可能としている.わが国で最もポピュラーな促進策がERASプロトコルである.その理由の一つには,筆者をはじめわが国で促進策を学ぶ手段が,欧州臨床栄養代謝学会(エスペン,European Society for Clinical Nutrition and Metabolism:ESPEN)を通してであったことにある.ESPENが主催している臨床栄養に関する生涯学習における周術期栄養管理のセッションでは,ERASプロトコルをおもに学ぶことになる.3) ACERTO project(南欧から発信)2008年にはAguilarらにより,ポルトガルにおいて結腸直腸切除術の周術期管理に関してACERTO(アセルト,ACEleração da Recuperoção TOtal pós-operatória)projectが公表された5).内容は,ほぼERASプロトコルと同様で,南欧版の術後回復促進策である.4) ERPPまたはER(英国から発信)2011年には英国において促進策の適応範囲を整形外科,婦人科および泌尿器科の待機的大手術までに拡大した検討がなされERPP(Enhanced Recovery Partnership Program)として報告された.詳しい内容は,英国の国営医療サービス事業(National Health Service:NHS)のウェブサイト(https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/215511/dh_128707.pdf)から無償でダウンロードが可能である.ERPP1) Fast Track recovery program(米国から発信)促進策の導入は,1993年に米国における心臓血管外科の術後管理から始まった.周術期の工夫により,心臓血管外科手術後に集中治療室における人工呼吸管理の期間を短縮させることで術後回復が促進されることが示され,Fast Track(ファストトラック)Recovery programとよばれた2).Fast Trackとは,飛行機の搭乗に際して早く確実(安全)に搭乗できる優先ゲートに使われる名称である(図3).Fast Track Recovery programの導入は,その後の促進策の先駆けとなった.2) ERASプロトコル(北欧から発信)図3 Fast Trackのイメージ10
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