c高齢者に対する安全性,忍容性,有効性本書でも繰り返し述べられるように,多くの術式では,ERASプロトコルを導入することで,合併症の発生率が減少して,在院日数が短縮する7).しかし,高齢者に対しては,ERASプロトコルを安全に実施できるのか,疑問が残る.先行研究によれば,高齢者におけるERASプロトコル導入による忍容性が多施設共同研究により示されている8).同研究では,70歳以上の高齢者における結腸直腸切除術に対してERASプロトコル高齢者の術後回復促進のために第1章年齢:70歳をカットオフに分類.リスク:ASA grade*1(I〜II)と(III〜IV)に分類.⇒患者を2×2の4つの群に分類B 高齢者に対する術後回復促進策の考え方 は略してERともよばれ,英国版の促進策である.英国は国民の医療費が無料であり,医療経済が逼迫した状況にあった.そこで,NHSが主導してERの導入を進めた.ERを導入している施設には国から補助金(インセンティブ)を出し,推進している.5) ASER(米国から発信)2014年には,米国においても促進策を普及させる団体であるASER(エイサー,American Society for Enhanced Recovery)の活動が始まった.ASERの特徴としては,麻酔科医が中心となって促進策を提案している点である.さらには,麻酔科医による栄養評価や介入を推奨していることも特徴としてあげられる6).6) ESSENSE project(わが国から発信)2010年頃より,わが国でも促進策の概念が普及し始め,日本外科代謝栄養学会が中心となりESSENSE(エッセンス,ESsential Strategy for Early Normalization after Surgery with patient's Excellent satisfaction)projectが展開されている7).筆者もESSENSE projectに参加しており,臨床研究を共同で実施している.しかし,わが国における認知度はいまだ低いのが現状である.を導入した.その結果として,以下のような結果が得られた.・術後早期の経口摂取は可能.・術後早期の歩行は可能.・合併症の発生率に変化なし.・再手術の頻度に差はない.・再入院率に差はない. ⇒以上の結果から,安全性,忍容性が示された.高齢者の周術期においてERASプロトコルを導入した場合の効果に関しては,多くの先行研究による結果の報告がある.これらの先行研究では,高齢者の定義は70歳以上としている.以下に,いくつかの先行研究の結果を示す.1) Italian database study9)〈本研究の結論〉ERASプロトコルは,高齢者への適応が可能.ハイリスク患者でコンプライアンスが低く,リスクに関係なく70歳未満では70歳以上の患者よりも在院日数が1日短かった.〈対象〉結腸直腸切除術を受けた患者. 〈結果〉・ 登録患者数:イタリアの11施設,706例の患者が登録された.・ コンプライアンス:全身状態が悪い患者(ASA III〜IV)で術前炭水化物負荷,硬膜外11
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