2585よくわかる高齢者術後回復支援ガイド
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A2第1章 高齢者の術後回復促進のために・高齢者の定義は?・手術件数はどうなる?・周術期管理における課題は?第1章 高齢者の術後回復促進のためにQuestion 「高齢者」の定義は,国際連合(国連)では60歳以上,世界保健機関(World Health Organization:WHO)では65歳以上,わが国の厚生労働省では前期高齢者が65〜74歳,後期高齢者が75歳以上となっている.ただし,厚生労働省が65歳以上を高齢者と定義したのは,年金支給や医療費の負担割合からの理由が大きい.その一方で,日本老年学会・日本老年医学会では75歳以上に引き上げようという議論もなされている.本書では,欧米諸国における周術期の諸研究にある高齢者の定義に準じて65歳以上と定義する.高齢者においては,生体機能および生理的予備能が低下しており,術前併存疾患保有率が高い.また,ひとたび合併症を併発すると,もとの状態に復するまでに時間を要する1).さらには,認知機能の障害を有していたり,老老介護や独居などの家庭環境といった社会的問題を有していたりする場合も多い.日本人の平均寿命は年々延び,2013年には男女ともに80歳を超えた(図1)2).そして,2020年には,日本人の平均寿命は女性87.74歳,男性81.64歳で2019年から女性が0.3歳,男性は0.22歳延びており,年々延びる傾向に変わりはない.わが国は,世界のなかでも長寿国とされ,平均寿命が公表されている国や地域のなかでは女性が香港に次いで2位,男性は香港とスイスに次いで3位となっている.それに伴い,当然,手術患者の高齢化も進んでいる.手術患者における高齢化の要因としては,手術の低侵襲化および周術期管理の技術向上による効果もあげられる.以前は,手術が不可能であったような合併症を有した高齢患者に対しても,手術手技および麻酔管理の質向上により,現在では実施可能となっている.わが国で,実施された手術における年齢分布に関しては,2011年から症例登録がはじまった「一般社団法人National Clinical Database(NCD)」のデータベースが活用しやすい.掛地らにより,2011年1月1日〜2014年12月31日までの4年間にNCDに登録された消化器外科専門医115術式の総数2,056,325例が解析されている3).食道33,728例(1.6%),胃・十二指腸293,429例(14.3%),小腸・結腸741,487 (36.1%),直腸・肛門192,199例(9.3%),肝101,976例(5.0%),胆486,040例(23.6%),膵62,720例(3.1%),脾16,532例(0.8%),その他128,214例(6.2%)に関して解析が実施された.その結果,1高齢者における手術の現状Point»●高齢患者に対する手術件数は増加の一途をたどる.●手術・周術期管理には,多くの課題が存在する.高齢者における手術・周術期管理の現状と課題

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