a高齢者における術前管理の課題高齢者の周術期管理においては,術前評価および術前介入において課題がある.X線撮影,採血や心電図検査は受動的な検査であるために,高齢者でも十分に対応できる.一方,能動的な検査である呼吸機能検査,歩行速度や体組成計測などは,患者本人の対応能力により検査値が正確に計測できない場合がある.例) 呼吸機能検査で呼出機能を計測する際に,タイミングが合わなかったり,義歯の不第1章 高齢者の術後回復促進のためにられるので,ここでは,術前および術後に関して言及する.術前評価において,高齢者では特に注意すべき点がいくつかある.併存疾患を有していると,手術対象となる疾患が原因でなくても,併存疾患の影響により検査値に異常をきたす.例)糖尿病の合併で血糖値が高い,糖尿病性腎症で腎機能に異常がある.b) 情報の表現が不確か主訴や病歴の聴取をしても,表現や記憶が不確かな場合が多く,情報収集に難渋する.例)主訴として明確なものがなく,以前からある不定愁訴を訴える.c) 術前検査に対応できない具合により呼気漏出があったりした場合には,不正確な検査結果となる.成人の栄養不良の定義はBMI<18.5 kg/m2.一方,70歳以上の高齢者ではBMI<20(女性),<22(男性)kg/m2の場合に栄養不良を疑う4).また,高齢者でよくみられる下腿の浮腫が存在する場合にはBMIや筋肉量が見かけ上高く表示されてしまう.e) 内服薬を複数内服している傾向がある多剤服用にて薬物による有害事象が生じているようなポリファーマシー(polypharmacy)に関しては,第5章において詳細が述べられている.有害事象が生じていなくても,複数の内服薬が処方されている場合が多く,周術期への悪影響となるような薬剤に関しては術前に調整が必要となる.例) かかりつけ医から脳梗塞の既往もないのに脳梗塞の予防目的でバイアスピリン®錠100 mgが処方されている.この場合には,手術の7日間前をめどに休薬する.近年,悪性腫瘍に対する手術療法においては,術前に薬物療法や放射線療法が併用される場合が多い.高齢者では,これら併用療法の副作用である消化器症状,肝腎機能障害や神経症状が出現しやすく,回復までの時間も長期間を要する.例) 術前化学療法によって生じた味覚異常が残り,食事摂取量が減少.2) 高齢者における術前介入の課題周術期管理の安全性を向上させる目的で,高齢者に対しても術前介入が実施される.抗血小板薬および抗凝固薬に関しては,術前に調整が必要である.患者本人が薬物管理を実施できることが望ましい.しかし,高齢者では困難であったり,忘れてしまったりする場合がある.特に,一包化された内服処方の場合には,分別作業が必要であり薬1) 高齢者における術前評価の課題a) 併存疾患を有している場合が多いd) 栄養状態・体組成などは基準値が成人と異なるf) 術前の併用療法の影響が残りやすいa) 内服薬の休薬および継続のコンプライアンスが低い4
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