2585よくわかる高齢者術後回復支援ガイド
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(http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=66)を参照.例) 糖尿病を有した高齢者で術前12時間の絶食をしたところ,重症の低血糖発作を呈し高齢者の術後回復促進のために第1章 5d) 術前栄養介入がむずかしいf) カウンセリング・同意説明が困難剤師の介入が必要となる.例) 術前7日間の休薬が必要なバイアスピリン®を,休薬するのを忘れていた.b) 絶飲食指示のコンプライアンスが低い術前の絶飲食時間に関しては,日本麻酔科学会の「術前絶飲食ガイドライン」5)をもとに施設ごとに定められている.指示の聞き間違えや解釈の違いにより,絶飲食時間が守られていなかったために手術開始時間が延期になる場合がある.例) 朝7時までに水だけの摂取を許可していたが,誤ってジュースを飲んでしまった.c) 術前リハビリテーション介入のコンプライアンスが低いサルコペニアやフレイルを有しているために,術前のリハビリテーションが必要な高齢者も多い.しかし,運動耐容能の低さや身体の痛みなどにより,十分なリハビリテーションができない場合がある.また,リハビリテーションに伴う転倒・骨折などのリスクもある.呼吸リハビリテーションに関しても同様で,疲労や息苦しさが強くなると目標を達成できない.例) 術前に5回の全身リハビリテーションを計画していたが,途中で脱水症になり入院してしまった.術前の栄養状態が悪い高齢者では,周術期における合併症の発生率が高い.可能であれば経口的な栄養剤を活用した術前栄養介入が望まれる.しかし,食欲低下,味覚異常,消化不良,胃食道逆流や嚥下障害などが原因で計画どおりの栄養介入ができない場合も多い.また,栄養剤を摂取しただけでは筋肉合成は進まず,運動療法を併用することが望ましい.しかし,高齢者ではむずかしい場合が多い.例) 術前に栄養剤を処方したが,甘すぎるためにほとんど摂取できなかった.e) 術前血糖コントロールのゴールが成人と異なる術前血糖コントロールが不良な高齢者では,周術期における合併症の発生率が高くなる.術前管理目標は,成人では空腹時血糖値126mg/dL未満,HbA1c 6.5%未満である.一方,成人の基準に準じて高齢者で管理した場合には低血糖が危惧される.日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会から,2016年5月20日付で発表されている「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標値」(HbA1c 値)によれば,認知機能障害と日常生活動作(activities of daily living:ADL)低下の有無により目標値が異なっている.おおむね,合併症予防のための目標は7.0%未満である.ただし,適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合,または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満,治療の強化がむずかしい場合の目標を8.0%未満とされている.日本糖尿病学会ホームページ「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」た.術前の通院が困難,認知機能の低下,麻痺,難聴や視力障害などがある高齢者は多い.そのため,カウンセリングや同意説明が患者本人に対してだけでは困難なことがある.30分以上の長時間に及ぶようなカウンセリングも集中力低下や坐位保持の困難などの理由で不可能である.可能であれば,同居者や家族の同席が望ましい.例) Parkinson症候群で手指振戦があり,カウンセリングは受けられたが,同意書へのサインが手指振戦のために不可能であった.A 高齢者における手術・周術期管理の現状と課題

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