1高齢者の周術期管理と術後回復促進策a術後回復促進策とはB8第1章 高齢者の術後回復促進のために1) 導入の背景・世界の術後回復促進策はどうなってる?・高齢者への忍容性は?・高齢者への有効性は?第1章 高齢者の術後回復促進のためにQuestion 周術期管理において術後回復促進策の有用性が多く示されている.その一方,手術患者の高齢化は進み,例えば結腸直腸切除術を受ける患者の70%以上は65歳以上の高齢者である1).果たして,高齢者に対しても促進策は有効なのであろうか.術後すぐに食べ始めて誤嚥の危険はないのであろうか.立ち上がって,転倒の危険はないのであろうか.本項では,世界に拡がる促進策と高齢者への活用に関して概説する.促進策の導入は,1993年に米国における心臓血管外科の術後管理から始まった2).その後,2000年に入り北欧を発信源として,手術を受ける患者の術後回復を促進して予後を改善する周術期管理方法として,術後回復能力強化プログラム(Enhanced Recovery After Surgery program:ERASプロトコル)とよばれる促進策が提唱された3,4).ERASプロトコルが生まれた背景には,北欧における医療費の高騰が国の経済に悪影響を及ぼしていることがあった.特に,周術期において,合併症の発生率が上昇したために在院日数が延長し,医療費が高騰していた.ERASプロトコルは,周術期のなかでも合併症の発生率が高かった結腸直腸切除術への導入から始められた.2) 概 念促進策は,科学的根拠(以下,エビデンス)に基づき,チーム医療により実施される周術期を通したリハビリテーションプログラムと考えられている.促進策を実施するアウトカムは,周術期管理における患者の安全性向上,合併症の発症率低下,在院日数の短縮の3つとされている.その結果として,医療費の削減が達成される.従来型の管理に比べて促進策では,手術侵襲によるダメージを軽減し身体機能の回復までの期間を短縮することができる(図1).様々な周術期管理の工夫によって,手術侵襲が引き金として生じるストレスを軽減することが促進策の目的である.全世界から,これらの目的を達成するための様々な促進策が発信されていている(表1).また,適応術式は年々,増加し続けている(図2).Point»●高齢者においても術後回復促進策は有効,ただし注意も必要である.●目指すのは術後早期のDREAM(S)達成である.高齢者に対する術後回復促進策の考え方
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