11基礎研究はじめに インスリン/インスリン受容体様成長因子(IGF)‒1のシグナル伝達分子は,種を超えて保存されており,おもに代謝や増殖の調節を担っている.下等生物においてはその作用の低下によって寿命が延長することがよく知られているが,これが哺乳動物にもそのまま当てはまるかについては議論が続いてきた1,2).老化関連疾患の中でサルコペニアでは加齢に伴い筋肉の量と機能が低下するが,その病態形成にはインスリン/IGF‒1シグナルの低下も寄与するものと考えられている3‒5).加えて糖取り込み促進作用を考えるうえで骨格筋は重要な組織であり6,7),サルコペニアはインスリン抵抗性の原因となるものと考えられているものの,その詳細な分子機序や全身の老化との関連は,これまで十分に明らかではなかった. このような背景を踏まえ,我々はインスリン/IGF‒1シグナルの下流で中心的な役割を果たすキナーゼAktに着目し,モデルマウスを用いた解析を進めて,最近報告した8).本稿では骨格筋におけるインスリン/IGF‒1シグナルの,サルコペニアや寿命に対する作用について概説したい.骨格筋特異的Akt欠損マウスの樹立 我々はまず若週齢と高週齢の野生型マウスを用い,インスリン刺激下のシグナルの解析を行った.Aktはシグナルの比較的下流にあたる鍵分子であるが9,10),高週齢マウスの骨格筋ではそのリン酸化が減弱しており,加齢は骨格筋において,特に下流におけるインスリン抵抗性を惹起するものと考えられた.我々はそのモデルマウスとして,Aktのアイソフォームのうち骨格筋にはおもにAkt1,Aktの2つが発現していることを踏まえ11),Mlc1f‒Creノックインマウス12),Akt1‒floxedマウス13),Akt2‒floxedマウス14)をかけ合わせ,骨格筋特異的Akt1/Akt2ダブル欠損(mAktDKO)マウスを樹立した. ミオシン軽鎖の構成蛋白をコードするMlc1f遺伝子は,解糖系が発達し,瞬発力に優れた速筋におもに発現するが15),mAktDKOマウスにおいても特に速筋においてAktの発現が低下し,その下流のシグナルも抑制されていた8).骨格筋特異的Akt欠損マウスの骨格筋関連の表現型 このマウスは生まれてしばらくは明らかな表現型を示さないものの,加齢とともに体重,並びに速筋重量の減少が認められた.骨格筋の機笹子敬洋1,山内敏正1,門脇 孝2,植木浩二郎31.東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科2.国家公務員共済組合 虎の門病院3.国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター骨格筋のAktによる老化・寿命の調節機構
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