2593糖尿病学2023
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85試験の結果から従来のGLP‒1受容体作動薬と同等以上の血糖改善,体重減少効果が期待される.本稿では,インクレチンの生理的,薬理的作用と長時間作動型GIP/GLP‒1受容体作動薬であるチルゼパチド(tirzepatide)の効果について述べる.臨床研究・展開研究はじめに 生体内のエネルギーバランスは,視床下部,脳幹などの中枢神経および消化管,肝臓,甲状腺,膵内分泌細胞,脂肪組織などの末梢組織が複雑なネットワークを形成して調節している.消化管ホルモンは,様々な栄養素の消化・吸収や蓄積,食欲抑制といったエネルギー調節機能を有している.glucose‒dependent insulinotropic polypeptide(GIP)とglucagon‒like peptide‒1(GLP‒1)は主要なインクレチンとして,膵β細胞上のGIP受容体およびGLP‒1受容体を介してインスリン分泌を促進する.GIPとGLP‒1は,生体内に存在するdipeptidyl peptidase‒4(DPP‒4)によって速やかに分解され,その生理作用は数分で消失する.そのためインクレチンの作用を応用した糖尿病治療薬(インクレチン関連薬)には,GLP‒1受容体を刺激するGLP‒1受容体作動薬とDPP‒4自体を阻害して内因性の活性型インクレチンの血中濃度を高めるDPP‒4阻害薬がある.DPP‒4阻害薬が2009年にGLP‒1受容体作動薬が2010年にわが国で上市され,広く臨床の現場で使用されている.最近では,薬理的な作用でGLP‒1受容体のみならずGIP受容体を刺激する長時間作動型GIP/GLP‒1受容体作動薬が開発され,2型糖尿病患者に対する臨床インクレチンの生理作用と薬理作用 GIPとGLP‒1は栄養素の摂取によって腸管内分泌KおよびL細胞から血中に分泌され,インスリン分泌を促進する.GLP‒1はインスリン分泌促進作用に加えて,膵α細胞からのグルカンゴン分泌を抑制する.GLP‒1受容体は中枢神経に広範囲に存在し,食欲抑制に関与する視床下部や延髄最後野等に発現し,一部のGLP‒1受容体作動薬は直接脳内のGLP‒1受容体に結合することが知られている1,2).また末梢の感覚神経終末にもGLP‒1受容体が発現し,求神経を介して上行性に最後野を刺激する3).このようにGLP‒1は視床下部,延髄最後野,感覚神経と3つの経路から食事摂取を低下させる4).加えて,GLP‒1は迷走神経を介して胃排出を低下させる.2型糖尿病患者にDPP‒4阻害薬,GLP‒1受容体作動薬を投与したクロスオーバー試験では,グルカゴン抑制作用は両薬剤で認められたが,胃排出や食欲の抑制効果はGLP‒1受容体作原田範雄1,稲垣暢也21.京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学2.公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院長時間作動型GIP/GLP—1受容体作動薬の糖尿病・肥満に対する効果について11

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