図1① LSD患者細胞内の粗面小胞体で,変異蛋白が合成される.② 変異のために,正しい立体構造を取れず凝集し(ミスフォールディング),分解される.③ 中性環境下の粗面小胞体ではシャペロンは変異酵素と結合することにより,立体構造を安定化させ,正しくライソゾームへ輸送されるようになる.④ 同様に,酵素補充療法により供給される組換え酵素も,細胞内外でシャペロンと結合することで,安定化され半減期が延長し,細胞内への取り込み量も増え活性も増強される.⑤ シャペロンが酵素の活性中心に結合し活性を阻害する場合には,ライソゾームへ輸送された際のpHの変化により結合が外れることが望ましい.ただしアロステリック部位などに結合して,活性を阻害しない場合は必ずしも結合が外れる必要はない.第1章④核①③②総論 とを目的とするため,全く酵素蛋白質が合成されない種類の遺伝子型を有する患者では効果は期待できない.DGJのシャペロン効果が最初に確認されたのはGLAの R301QやQ279E 変異で,臨床病型としては心ファブリー病と分類され,残存活性が比較的高いミスセンス変異(missense muta-tion)であった2).患者で同定されたGLA遺伝子変異のうち,DGJのシャペロン効果が期待できるかを判定する方法については,培養細胞を用いてそれぞれの変異遺伝子を発現させミガーラスタットの存在下で酵素活性を測定するアッセイ法(assay)が確立している3).反応性の判定基準としては,残存酵素活性が1.2倍以上かつ,絶対量として正常酵素の3%以上の増加することと定め,この基準を満たす変異をもつ患者のみ本薬剤の適応となる.この条件を満たす変異をもつファブリー病患者は日本では20〜30%と推定される4).このin vitroでの培養細胞を用いてのアッセイ法の盲点としては,反応性が期待されると判定される遺伝子型であってもヒトで投与した場合には臨床的に効果がない遺伝子型が存在することが明らかとなっている(例p.L294S)5).実臨床上は,治療を継続するなかで,血漿グロボトリアオシルスフィンゴシン(globotriaosylsphingosine:lyso-Gb3)などのバイオマーカーをモニターしながら,全身の合併症の評価をして臨床上の真の反応性を個々に検証することで対応が可能である.経口投与可能なDGJの忍容性は高いが,報告されている副作用としては,頭痛,下痢がある.腎臓での代謝を受けるため腎機能が一定以上低下した患者では使用できない.また乳幼児での安全性が確認できておらず安全性試験の結果が待たれる. 酵素補充療法(enzyme replacement therapy:ERT)と比較して,隔週ごとの点滴通院治療から開放され,ERTで問題となる投与関連反応(infusion as-sociated reaction:IAR)を有する患者や酵素製剤に対する中和抗体による臨床効果減弱が疑われる症例では,DGJへの切り替えによりQOL(quality of life,生活の質)の改善が期待できる(表1). ライソゾーム病での薬理学的シャペロン療法の作用機序124 │D ライソゾーム病の治療シャペロン変異酵素粗面小胞体(中性環境)組換え酵素(酵素補充)⑤ライソゾーム(酸性環境)
元のページ ../index.html#8