2597ライソゾーム病改訂第2版
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45表1 ファブリー病以外で,いくつかのライソゾーム病においてもPCTの開発が進んでいる.原理上,効果が期待できる対象は遺伝子型に依存するが,通常のERTでは到達することができない中枢神経組織に分布できることが魅力である.具体的には,神経型ゴーシェ病において,アンブロキソール(ambroxol)が責任酵素であるGBAの活性を回復させることが発見された.ヒトにおいてアンブロキソール高用量の投与により脳脊髄液中に検出されることから,反応性のある変異の場合,中枢神経系での残存酵素活性を上昇させ効果を発揮できる可能性が推定された.現行のERTや基質合成阻害薬では中枢神経病変への効果は期待できないため,わが国において,Naritaらが,パイロット臨床研究を行い,ゴーシェ病(Gaucher disease)患者での神経症状のミオクローヌス(myoclonus)や瞳孔の光反射の障害が改善したことを報告している6). PCTの利点を活用する新たな方向性として,ERTとの組み合わせによる併用化学療法がある.ポンペ病(Pompe disease)におけるERTの問題点として,他のERTでも同様であるが,点滴静注された酵素製剤は,マンノース-6-リン酸受容体(mannose-6-phosohate receptor:MPR)を介して速やかにその大部分が肝臓に取り込まれてしまい,不安定な構造の酵素蛋白質は壊されてしまう.基質と類似した構造をもつ1-デオキシノジリマイシン(1-deoxyno-jirimycin:DNJ)とERTとの併用により,投与された酵素の血漿中の活性と酵素量が1.2〜2.8倍増強され,筋肉内の酵素活性が上昇することが第Ⅱa相試験にて示された7).Portoらは,α-グルコシダーゼ(α-glucosidase)の活性中心に結合するのではなく,アロステリック(allosteric)部位に結合し酵素を安定化させるN-アセチルシステイン(N-acetylcysteine)を用いたPCTとして,動物モデルにおいて点滴で投与される酵素の活性を上げることを示した8). 神経遺伝病である GM1ガングリオシドーシス(GM1 gangliosidosis)に対して,中枢神経への効果が期待できる化合物として,N-オクチル-4-エピ-β-バリエナミン(N-Octyl-4-epi-β-valienamine:NOEV)が開発された.NOEVは中枢神経症状が主体となるGM1ガングリオシドーシスの病因酵素であるβガラクトシダーゼ(β-galactosidase,β-GAL)に阻害薬作用をもつが,低用量では,変異酵素蛋白の活性を上昇させ,しかも血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)を通過することで,脳内での蓄積物質を減少させることが示されている9).さらに動物モデルにおいて,早期治療により神経症状の進行を止め,長期生存が可能になることも示されている10).しかし,未だヒトでの臨床試験には至っていない. ファブリー病に対するDGJによるPCTの開発の経緯と実用化後の課題,その他のライソゾーム病における開発の現状を紹介した.PCTが適しているライソゾーム病の特徴について考察する. 酵素補充療法(ERT)と比較した場合の薬理学的シャペロン療法の位置づけ現在開発が進行中のライソゾーム病での薬理学的シャペロン療法(PCT)ライソゾーム病での薬理学的シャペロン療法(PCT)の展望薬理学的シャペロン療法の利点低分子であるため:・ 血液脳関門を通過できる可能性があり中枢病変への有効性が期待できる・ERTでは届きにくい全身の組織にも分布しうるERTの投与関連反応 (IAR) など,治療継続困難症例に作用機序が異なるため効果が期待できるERTとの併用により投与された酵素の効果を増強できる可能性がある腸管から吸収できる場合は経口投与可能克服すべき課題・中枢神経への副作用のリスク・ 化合物の代謝・排泄特性によっては肝機能障害・腎機能障害例で使用が制限される・小児での投与は制限されることが多い・同一疾患でも有効性が遺伝子型で異なる・ 酵素蛋白が作られない遺伝子型には無効(残念ながらこのような遺伝子型でIARの頻度が高い)ERT製造企業と共同開発が必要服薬コンプライアンスの問題D-7 薬理学的シャペロン療法(PCT) │ 125

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