2613子どもの精神保健テキスト 改訂第3版
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6.適応障害⿟概念 ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で,社会的機能が著しく障害されている状態.旧来は,大うつ病にも気分変調症にもあてはまらず,明確なストレス因を同定できたもののみ適応障害と診断することになっていたが,DSM‒5では,ストレス関連障害に分類さ断名でPTSDの症状に加えて,“disturbances in self‒organization”(自己組織化の障害であるが,意訳をすれば自己認識を統一することができないという意味)として,(1)affective dysregulation(AD:感情調節の変動),(2)negative self‒con-cept(NSC:否定的な自己概念),(3)disturbances in relationships(DR:他者との関係の障害)があげられている. 具体的な症状としては,抑うつを基盤とした気分の変調,かんしゃく,イライラの爆発,希死念慮,日常的な記憶の断裂,日常的なフラッシュバック,生活リズムの混乱,睡眠障害,慢性疼痛などが認められる.重症例では解離性同一性障害もみられる.自分自身を客観的にとらえられず,自尊感情が低く,小児期の人格形成がスムーズにいかず,成人期に境界性人格障害に類似した様相を呈する.5.急性ストレス障害 症状がトラウマ(心的外傷)体験直後からはじまり,少なくとも3日間続き,長くても1か月間の場合に診断される.この場合もPTSDと同様メディアや画像を通して体験したことは前提基準に含まない.症状はPTSDの症状に類似するが,急性ストレス障害からPTSDへの進展については細かい記載はない.76れた.⿟症状 ある特定の状況や出来事が,その人にとってとてもつらく耐えがたく感じられ,そのために気分や行動面に症状が現れる.たとえば憂うつな気分や不安感が強くなるため,涙もろくなったり,過剰に心配したり,神経が過敏になったりする.また無断欠席や無謀な運転,けんか,物を壊すなどの行動面の症状がみられることもある.発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1か月以内であり,ストレスが終結してから6か月以上症状が持続することはない.⿟対応と治療 ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているので,その原因から離れると,症状は次第に改善するが,ストレス因から離れられない,取り除けない状況のことも多く,症状が慢性化することもある.そのような場合は,カウンセリングを通してストレスフルな状況に適応する力をつけることが有効な治療法となる.⿟経過と予後 適応障害と診断されても,5年後には40%以上の人がうつ病などの診断名に変更されている.つまり,適応障害は実はその後の重篤な病気の前段階の可能性もある. ストレス因があり,不登校,ひきこもり状況を呈した子どもや青年に,適応障害の症状がみられることが多い.しかし,不登校やひきこもりには,欧米とは異なった日本の社会・文化背景があることやこのような人が精神科を受診することはまれであることから,その相違点について分析すべきであるが,まだ分析されていない.

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