3 診断の先にあるもの 2007第2章 診断という不確かなモノ症候群」(衣笠は発達障害が隠れているかもしれない。二次障害への理解に基づくこうした懸念は、鑑別のむずかしさなどとも相まって、精神科医療での発達障害ブームをさらに後押ししたのではないだろうか。こうしてみると、発達障害の診断・診療には多くの不確かさがあるように思える。それでも、私がフィールドワークのなかで出会った、あるいはのちにインタビューをさせていただいた医師たちが診断を出す際、一つ大きな指針というか、判断の基軸となっていたのは、「この人のいまの生活において、診断が必要か」「診断を出すことで、この人の生活はよくなるか」という観点だったように思う。診断が下りれば、子どもの場合は投薬治療を開始したり、療育プログラムなどに通い始めたりすることで、状況を改善できるかもしれない。大人の場合はジョブコーチをつけてもらって職場での適応を促したり、障害年金を受給したりもできる。こうした支援施策は必ずしも医療が提供するものではなく、公的な福祉制度や民間企業が提供するサービスなども含んでいるが、医師たちは、診断書を出すことで患者をどのような社会資源に結びつけることができるのかをよく知っているし、それを一つの大きな指針としている。逆にいえ)とよばれたりもしていた。一見したところではわからないところに、実67
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