小児科診療
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2023年 Vol.86 No.8 2023-07-13
小児・AYA世代がん診療の現在と未来
定価:4,180円(本体価格3,800円+税)
序文 /加藤元博
Ⅰ.小児・AYA世代がん診療の新展開
中央診断の現状と課題 /大喜多 肇
ゲノム検査 /加藤元博
小児がんの遺伝的背景 /服部浩佳
遺伝子細胞療法 /今井千速
新薬の開発と導入 /小川千登世
晩期合併症と長期フォローアップ /日髙もえ・他
AYA世代がんの現状と課題 /松井基浩
放射線治療 /副島俊典
Ⅱ.造血器腫瘍の現在と未来
乳児急性リンパ性白血病 /宮村能子
T細胞性急性リンパ性白血病 /佐藤 篤
B前駆細胞性急性リンパ性白血病 /森谷邦彦
AYA世代急性リンパ性白血病 /早川文彦
急性骨髄性白血病 /辻本信一
急性前骨髄球性白血病 /湯坐有希
一過性骨髄異常増殖症 /村松秀城
Down症候群に伴う骨髄性白血病 /多賀 崇
慢性骨髄性白血病 /嶋 晴子
若年性骨髄単球性白血病 /吉田奈央
Hodgkinリンパ腫 /古賀友紀
非Hodgkinリンパ腫 /深野玲司
組織球症 /坂本謙一・他
造血細胞移植 /梅田雄嗣
Ⅲ.固形腫瘍の現在と未来
神経芽腫 /家原知子
肝腫瘍 /渡邉健一郎
腎腫瘍 /大植孝治
横紋筋肉腫 /白川奈美・他
骨肉腫 /岩田慎太郎
Ewing肉腫 /細谷要介
網膜芽細胞腫 /山田悠司
中枢神経外胚細胞腫瘍 /荒川ゆうき
神経膠腫 /山崎夏維
髄芽腫 /福岡講平
中枢神経系胚細胞腫瘍 /寺島慶太
小児・AYA世代がん診療の現在と未来
加藤元博 /東京大学医学部附属病院小児科
かつては,がんに対して有効な治療はごく限られており,小児がんは「不治の病」のイメージをもたれていました.1948年に白血病が代謝拮抗薬アミノプテリンで寛解に至ることが報告されて以降,がんに対する化学療法は大きな発展を遂げ,国内外の治療研究グループの臨床試験の積み重ねによる集学的治療の進歩の結果,現在では小児がんの多くで70%を超える長期生存率が達成されています.しかし,依然として再発・難治の患者は一定の割合でおり,小児の各年代の死因には悪性新生物が上位を占めています.一方で,原疾患の治癒を達成した小児がん経験者でも,晩期合併症により生活の質が制限され得ることが顕在化しており,小児がんの治療においては,再発率の低下と晩期合併症の最小化,という両立する課題が残されています.
また,思春期・若年成人(AYA世代)のがんに対する治療開発や支援体制の整備が遅れていることにようやく注目が集まり,この年代に特有の疾患に対する治療開発や社会的課題の解決に向けた取り組みが始まっています.小児がん・AYA世代がんは,社会的にも重要視されており,がん対策推進基本計画でも,優先して対応すべきがんとして取り上げられてきました.
本特集では,小児・AYA世代がんの現状を共有し,将来展望を知っていただくことを目的としております.構成は大きく三部に分かれており,第Ⅰ部では小児およびAYA世代のがんに対する横断的なテーマとして,診断体制の進歩や新たな治療モダリティ,さらには社会的な課題について取り上げました.小児がんはまれな疾患が多く,日本全国で発生するために,単施設のみでは対応に苦慮することも多いです.日本全国の小児・AYA世代がんの診療施設が,どのように連携し,体制の整備を行ってきたか,残された課題は何か,まとめていただいています.
また,小児・AYA世代がんは多様な疾患の集合であり,造血器腫瘍と固形腫瘍がおおよそ半分ずつとなっています.第Ⅱ部で造血器腫瘍を,第Ⅲ部では固形腫瘍をまとめています.それぞれの疾患の概要や,現在の治療に至るまでの背景,将来展開などを中心に執筆をいただきました.いずれの項目でも,「現在の標準治療」をただ記載するのではなく,疾患の「背景」や「歴史」,「未来」を記載いただき,技術や視点の変遷もあわせて執筆いただきました.
いずれの項目も,第一線で活躍中の専門医にご執筆をいただきました.小児がん・AYA世代がんを専門にされている若手の先生方の入門書としても役立つだけでなく,非専門家の小児科医のみなさまにもこの分野の「面白さ」と「これからの展望」に触れていただき,興味をもっていただくきっかけになればとても嬉しく思います.あらためて,ご執筆いただいた先生方および企画に携わってくださった皆さまに感謝申し上げます.