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ダウン症リハビリテーションガイド 改訂第2版診断と治療社 | 書籍詳細:ダウン症リハビリテーションガイド 改訂第2版

長野保健医療大学保健科学部リハビリテーション学科 理学療法学専攻 准教授

山本 良彦(やまもと よしひこ) 編集・執筆

稲荷山医療福祉センター リハビリテーション部 主任言語聴覚士

竹内 ちさ子(たけうち ちさこ) 執筆

改訂第2版 B5 並製 112頁 2024年09月20日発行

ISBN9784787826817

定価:2,750円(本体価格2,500円+税)
  

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さらに豊富になったイラストとわかりやすい言葉で,ダウン症の基礎知識やダウン症をもつ人の発達,支援など,知りたかったことを学べる一冊.高齢期の生活支援についての項目を加えるとともに,既存の項目の内容も更新した.

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目次

改訂第2版の序文  
初版の序文  
執筆者一覧
 
第1章 ダウン症の基礎知識
 A.ダウン症とは  山本良彦  
  1 染色体について  
  2 ダウン症の分類  
  3 ダウン症の原因  
 B.ダウン症の病態  山本良彦  
  1 ダウン症の障害像  
  2 ダウン症の出生頻度  
  3 身体的な特徴  
  4 知的・性格的な特徴  
 C.ダウン症の併存症  山本良彦  
  1 幼児期  
  2 学童期  
  3 青年期  
  4 成人期,高齢期
 
第2章 ダウン症のある人の発達
 A.定型発達(一般的な発達)の道しるべ  山本良彦  
  1 発達のみかた  
  2 姿勢と運動の発達  
  3 あそびの発達  
  4 ことばの発達  
  5 社会性の発達  
  6 高齢期の発達  
 B.ダウン症児の姿勢と運動の特徴  山本良彦  
  1 姿勢発達の特徴  
  2 移動運動の発達の特徴  
 C.ダウン症児の言語能力の特徴  竹内ちさ子  
  1 理解の特徴  
  2 表出の特徴  
  3 そのほかの特徴  
 D.ダウン症児の知能・情緒・社会性の特徴  竹内ちさ子  
  1 知能の発達  
  2 情緒・社会性の発達
 
第3章 幼児期・学童期の発達支援
 A.リハビリテーション(発達支援)の考え方  山本良彦  
  1 リハビリテーションとは  
  2 早期療育~集中的なリハビリテーションが必要な時期,スキャモン  
  3 ライフステージに合わせた目標  
  4 集中的なリハビリテーション終了の時期  
 B.姿勢と運動のリハビリテーション  山本良彦  
  1 姿勢保持  
  2 寝返り動作  
  3 移動動作  
  4 階段昇降  
  5 運動学習  
 C.日常生活におけるリハビリテーション  山本良彦  
  1 食事動作  
  2 排泄動作  
  3 あそび  
  4 身体イメージを育てるための支援  
 D.ことばのリハビリテーション  竹内ちさ子  
  1 意味のあることばが出る前の時期  
  2 意味のあることばが出始める時期  
  3 文レベル~たくさんお話する時期  
  4 さまざまな手段を用いたコミュニケーション 
 E.乳・幼児期の食べる機能のリハビリテーション  竹内ちさ子  
  1 哺乳のころ  
  2 離乳食開始・初期のころ  
  3 離乳食中期のころ  
  4 離乳食後期のころ  
  5 離乳食完了期以降  
 F.リハビリテーションとインフォームドコンセント  山本良彦  
  1 保護者への説明  
  2 リハビリテーションのアドバイス  
  3 リスク管理
 
第4章 青年期の生活支援
 A.医療の支援  山本良彦  
  1 併存症と健康の管理  
  2 医療の移行支援  
 B.生活の自立に向けた支援  山本良彦  
  1 何ができたら自立? どこまでできたら自立?  
  2 生活の場  
  3 お金の計算  
  4 時間の管理  
 C.就労,社会参加の支援  山本良彦  
  1 向いている仕事  
  2 働く場所  
  3 潜在能力  
  4 就労による社会参加の例  
  5 大学で学ぶ
 
第5章 高齢期の生活支援
 A.ダウン症のある人の高齢化   
  1 高齢期の特徴  山本良彦  
  2 高齢期の運動  山本良彦  
  3 高齢期の日常生活(食生活,排泄)  山本良彦  
  4 高齢期のことば・コミュニケーションの支援  竹内ちさ子  
  5 高齢期の口腔・食事の支援  竹内ちさ子  
 B.適応障害  山本良彦  
  1 急激な退行  
  2 加齢に伴う機能低下の予防
 
column 山本良彦
 1 筋緊張  
 2 外反扁平足(靴とインソール)  
 3 体幹2点歩行動揺測定  
 4 人見知り  
 5 NIPT(母体血を用いた出生前遺伝学的検査)について考える  
 6 障害者差別解消法  
 7 脳における学習  
 8 身体イメージ  
 9 地域活動 ダウン症児の運動能力評価「あんぱんくらぶ」  
 10 専門職連携(チーム医療)  

INDEX  
文献一覧  
改訂第2版のあとがき

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序文

改訂第2版の序文

 本書の初版が出版されて11年になります.初版はダウン症の方が有する障害に関する誤解や先入観を払拭して,支援の糸口になってくれることを目的に執筆しました.この10年間でNIPT(新型出生前診断)を取り巻く環境も変化し,検査ができる病院の増加などの社会的変化が見られ,染色体異常症に対する関心は高まったと思います.しかし,残念なことに検査結果が陽性だった場合に妊娠中絶につながってしまうケースが多いという結果も出ています*.どのような選択であっても,ご家族が葛藤の中で決断されたことであるので,それは十分尊重すべきであると考えます.ただ,このような結果を見ますと,障害を持った子の育児がまだ安心してできる環境にはなっていないということを痛感します.
 現代の日本においては,人々の平均寿命は延びましたが,単に寿命が延びたことを喜ぶだけではなく,人生100年時代に向けて青年期,高齢期の生き方や働き方を考えなくてはなりません.当然のことながら,ダウン症の方々の平均寿命も延び,高齢期の生き方を考える必要も出てきました.時には適応障害(急激な退行現象)などの問題が生じることもありますが,原因を理解し対策やサポートを考えることはできます.
 青年期以降のダウン症の方々が社会参加し活躍している様子が,新聞やTVニュースなどで紹介されることも多くなったように思います.小児期における療育はもちろん重要ですが,その後の社会参加のあり方に目を向けることも大切です.この改訂第2版では第5章として「高齢期の生活支援」を新たに加え,既存のいくつかの章についても使用したデータや引用を見直しました.小児期から高齢期までを通した一連の発達の知識によって,小児期の療育に対する安心感も増すのではないかと思います.
 ダウン症の方々が日常生活を送るうえで,まだ多くの課題はありますが,本書を参考にしていただき,少しでも解決に近づけていただきたいと思います.なお,本書はダウン症の方のご家族やリハビリテーション専門職の入門者に向けて執筆しています.今回の改訂第2版もダウン症の方々への発達支援についての導入書としてお使いいただき,さらにダウン症の方々への理解を深め,発達支援,自立支援のガイド(手引書)としていただければ,これ以上の幸せはありません.
 2024年7月
 山本良彦


*NIPTコンソーシアムの調査によると,2021年現在までのNIPT(新型出生前診断)において,21トリソミー1,034例に対し899例の妊娠中断(約87%)があったことが報告されました(https://jams-prenatal.jp/testing/nipt/follow-up-survey/).




初版の序文

 ダウン症は,染色体異常の中ではもっとも頻度が高い疾患の一つであるといえます.誰にでも起こる可能性があり,とくに高齢のお母さんから生まれる頻度が高いことは多くの人々が知っています.しかし,自分の家族に起こるとは誰も思っていません.ダウン症児を授かったことを知った家族は,それが出産前でも出産後でもショックを受け動揺します.その要因の一つに,一般的な子どもの成長・発達とは異なることが強調され,育児への不安を高めるネガティブな情報が多いことが挙げられます.しかし,その子の命と付き合ってみると,この事実は想像していたほどには悲惨ではないことがわかります.
 平成25年4月から,一定の制限のもとに新しい出生前診断が実施されるようになり,胎児のうちに比較的安全に,そして高い確率で「ダウン症候群(21トリソミー)」「エドワーズ症候群(18トリソミー)」「パトー症候群(13トリソミー)」の3つの染色体異常の診断を行うことができるようになりました.この出生前診断によって精神的,経済的,環境的に準備をする時間的余裕が得られることは明らかです.診断結果を受けて育てる決断をするのか,育てることをやめる決断をするのか,それは両親や家族がさまざまな背景の中で悩み,決めることですので選択に良いも悪いもありません.
 しかし,誤解や先入観だけで妊娠中絶を選択してしまう人もいます.出生前診断の検査結果が「陽性」であれば「妊娠中絶」という短絡的な考えに至る理由は,「ダウン症はどのような障害なのか」「ダウン症の人はどのように生きているのか」を想像できないことによります.「染色体異常」という診断名から抱くイメージはたぶんネガティブなものです.「こんな困ったことがあるけど,こんな方法で解決できるよ」という情報があれば,出生前診断の持つ意味もポジティブにとらえられるのではないでしょうか.
 本書はダウン症児の家族や,リハビリテーション専門職の入門者のために支援における糸口となることを願いながら書きました.そして,難しい説明はできるだけ省いて大切な部分をイラストや表を用いてわかりやすく示すことを心がけました.ここに書かれているリハビリテーションの内容は,ただ筋力を強くしたり,できない動作を繰り返して練習したり,単語をたくさん覚えさせるというものではなく,全項を通して「学習理論」「環境における動作や行為」「経験を裏付けとした言葉」などを重視し,機能や能力だけで子どもを見ないように配慮しています.また,ダウン症の人々は発達の経過に個人差が大きく,「何歳何カ月でこんな発達です」と言えないことが多いので,「いつできるか」ということよりも「何ができるか」という視点で発達をとらえるようにしました.
 本書を手にされた方々は「支えてくれる人たちがたくさんいる」「ダウン症で生まれても育てていける」という想いになっていただけることを心より願っております.本書のタイトルにもあるように「リハビリテーション(全人間的復権)」の「ガイド(手引書)」として活用していただければ幸せです.

 2013年11月
 山本良彦