2588先天代謝異常症クリニカルファイル
17/24

1.対症療法 症状が多岐にわたるので,関連各科と連携して合併症に対する精査および対症療法を行う.耳鼻咽喉科には,慢性中耳炎,難聴,気道閉塞による睡眠時無呼吸発作,扁桃・アデノイド切除,経鼻的持続陽圧呼吸(nasal continuous posi-tive airway pressure: nCPAP)療法などが適応となる.弁置換術,脊椎形成不全・変形による脊髄圧迫症状に対しては脊椎固定術,水頭症に対しては脳室-腹腔シャント(ventriculo-peritoneal shunt: V-Pシャント),股・膝関節変形に対しては手術療法が行われる.また,定期的な発達評価,療育・リハビリテーションを実施する.進行例ではけいれん発作,嚥下困難,食事摂取不良,気管狭窄による呼吸障害を呈するため,在宅療法も必要となる.1.一般検査,画像検査 本症では全身骨X線所見で“dysostosis multi-plex”と呼ばれる特有の骨変化[分厚い頭蓋冠,オール状肋骨,下位胸・腰椎体の変形(楔状変形,下縁突出),脊椎後弯,大腿骨頭の低形成,外反股,不整形の腸骨翼,長管骨骨端部の変形・低形成,指趾骨の弾丸状変形,中手骨近位端の狭細化等]がみられる.また,頭部MRI所見では血管周囲腔拡大が特徴的な所見である.2.尿中ムコ多糖分析 尿中に過剰排泄されるムコ多糖定量と分画の測定を行うことでMPSの病型を推測できる.通常MPS患者では,尿中ムコ多糖(ウロン酸)定量値が高値を示す.また,病型により尿中ムコ多糖分画比は特徴的なパターンを示す.ただし,IV型の軽症型や成人例では尿中ウロン酸値は増加しないことが多いため,注意が必要である.2.酵素補充療法(ERT) 遺伝子組換え技術により作製された酵素蛋白製剤を点滴静注により投与することで,欠損している酵素を補充する治療法である.MPSに対する酵素補充療法(enzyme replacement thera-py: ERT)は,5つの病型で実用化されている.現在,わが国ではI,II,IVA,VI,VII型に対するERTが実施可能である.一般にERTにより,6分間歩行距離(6-minute walking distance: 6MWD)の改善,呼吸状態の改善,肝臓脾臓サイズの正常化,皮膚・関節拘縮の軽減など体幹への効果が認められる 2).さらにII型の中枢神経症状の治療を目的とした脳室内投与用の酵素製剤および血液脳関門通過型の酵素製剤が2021年に使用可能となった.ERTは点滴静注や注入による投与のため,手技は簡便であり比較的安全であるが,定期的な酵素の補充を生涯にわたって継続することが必要である.また,投与時および投与後に発熱,蕁麻疹,喘鳴などのアレルギー反応を認めることがある.4.遺伝子検査 MPSの責任酵素蛋白をコードする遺伝子の病的バリアントを同定することでも確定診断が可能である.また,酵素活性低下が顕著でない軽症型や,酵素活性が正常対照と比較すると低いが症状を呈さないpseudodeficiency(偽欠損)の鑑別にも遺伝子検査が有用である.さらに同一家系内の保因者診断や出生前診断にも有用である.3.ライソゾーム酵素活性測定 各病型のライソゾーム酵素活性を測定することで確定診断が可能である.近年,乾燥ろ紙血検体を用いた微量血液中のライソゾーム酵素測定法が進歩し,新生児マススクリーニング(newborn screening: NBS)に応用されている.234ムコ多糖症II診断と検査III治療と予後

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る