2588先天代謝異常症クリニカルファイル
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 『先天代謝異常症クリニカルファイル』をお届けします.本書では,先天代謝異常症を診療する可能性のある臨床医,特に小児科医の先生方に向けて,主な先天代謝異常症について具体例を交えながらわかりやすく解説しました. 先天代謝異常症は「希少疾患」と呼ばれる疾患の代表的なものの一つです.先天代謝異常症には多種多様な疾患が含まれ,全体としては4,000〜8,000人に1人の頻度とも言われますが,個々の疾患でみるときわめて稀です.そのため,日常診療で実際に先天代謝異常症の患者さんに遭遇し,診断し,治療する機会は非常に限られています.多くの小児科医にとって,先天代謝異常症の診療経験を積み重ねることは容易ではないのです.そのような背景もあり,主治医が先天代謝異常症に気づくことができず,診断や治療に至るまでに長い年月を要してしまうことがあります. 一方,治療可能な疾患が多いのも先天代謝異常症の特徴です.先天代謝異常症の治療の進歩は著しく,早期に診断し,速やかに治療を開始することで,患者さんの予後が劇的に改善することも少なくありません.しかし,どんなに優れた治療法が開発されても,病気が進行した患者さんでの治療効果は限定的です.特に不可逆的な変化が生じてしまった臓器や組織を回復させるのは容易なことではありません.したがって,発症早期の非特異的な諸症状から先天代謝異常症を疑い,早期の診断と治療につなげることがとても大切です. 本書は「第I部 症例編」,「第II部 疾患プロファイル編」,「第III部 先天代謝異常症臨床の現状と展望」の3部から構成されます.第I部では,日常診療で研鑽することが困難な先天代謝異常症の診療を専門家あるいは専門家以外の立場から擬似体験できます(一部の症例は個人情報保護の観点から,本質を損ねない範囲で改変してあります).第II部では各疾患の概略を短時間で効率的に把握することが可能です.第III部では先天代謝異常症を取り巻くトピックを取り上げています.第I部で診療の具体的なイメージを獲得し,第II部で個々の疾患の概要を確認する,あるいは,ご自身が経験した患者さんと本書掲載の症例を比較するなど,様々な用途に役立つことでしょう.  本書では,日本先天代謝異常学会の学会員として先天代謝異常症の診療や研究に勤しまれている先生方を中心に,厳選した69例の症例と86の疾患プロファイルの執筆をお願いしました.本書を通じて,一人でも多くの先生方に先天代謝異常症の臨床と研究に関心をもっていただき,疾患の早期発見と治療に役立てていただければ幸甚です. 2024年2月吉日編集者を代表して奥山虎之『先天代謝異常症クリニカルファイル』 責任編集一般社団法人 日本先天代謝異常学会 前理事長iii序  文

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