2617日常生活から学ぶ 子どもの発達障害と睡眠
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図3 久留米大学小児科神経外来を受診した患者の内訳5睡眠に関係する生理機能・生理機能物質生後1か月頃から体内時計の調整ホルモンであるメラトニンの分泌が始まり,睡眠・覚醒リズムが整い出してきます.1歳頃までには,急速にメラトニン分泌量が増加し,夜間の睡眠が持続的になり,昼寝は1日1,2回程度に落ち着くようになります.メラトニンの分泌により,入眠を促します.深いノンレム睡眠は,大脳皮質の発達した段階で確立されます.メラトニンは睡眠だけでなく,様々な生理機能(体温調節,消化管の活動,呼吸リズム,循環機能等の自律神経機能,免疫機能など)を整える作用があります.またこの作用は他の生体ホルモン(成長ホルモン,コルチゾールなど)とも連動した動きを示します(図2).睡眠中は副交感神経が優位で,血圧や心拍数,呼吸数,体温が低下し,代謝も低下します.同時に,疲労回復を進め,免疫機能も整えます.発達障害のある子どもの睡眠を理解するために9れている一方,ASDの発症率は他の地域より低いとするデータもあります15).ASDは多因子かつ不均一な疾患という要素を考慮する必要はありますが,現代日本の生活スタイルを鑑みるに示唆深いと思われます.一方で,コルチゾールはメラトニンとは逆の作用を示し,起床前から日中の活動に備えて増えていきます.成長ホルモンは,寝入りばなに多く分泌され,睡眠リズムの確立とともに身体の成長を促します.他に食欲増進ホルモンのグレリンや食欲抑制ホルモンのレプチンなど食欲を調節するホルモンも睡眠リズムと関係しています.これらのホルモンは,食欲や肥満,血糖調節などの身体機能の維持や成長,脳と内臓との連動した作用に効果的な働きを示し,先の睡眠関連ホルモンとの協調的な作用がみられます16).乳幼児期からの睡眠の乱れは,これらのホルモンの働きを乱すことにつながり,さらに成人期以降の心身機能に影響を及ぼします.2022年度に久留米大学小児科神経外来を受診した患者(n=1,574)の内訳では,発達障害(知的能力障害,ASD,ADHD,コミュニケーション症群,限局性学習症,チック症群,発達性協調運動症,常同運動症)と診断された患者(n=1,487)のうち4分の1程度で何らかの睡眠障害を示していました(図3).コロナ禍にあって,例年の生活様態からは大きく異なる状況下にはありましたが,一般的な集団からみても発達障害児が潜在的に睡眠障害を抱えていることを示唆しています.これまで睡眠を評価する客観的な指標に乏しく,主観的かつ不確定な領域であり,データの収集においても膨大な時間と手間がかかり,また複雑な神経ネットワーク機能の理解も求め2 子どもの発達94%23%受診した人のうち発達障害と診断された人の割合発達障害と診断された人のうち睡眠障害を示していた人の割合II

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