2617日常生活から学ぶ 子どもの発達障害と睡眠
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b 健常児と発達障害児との睡眠の違い 2子どもの睡眠評価小児科医は睡眠に関する相談に乗れるよう様々なツールをもつ必要があります.ツールの1つは,子どもの睡眠習慣質問票日本語版(The Japanese version of the childrenʼs sleep habits questionnaire:CSHQ-J)です.Owenらによって開発されたCSHQは,世界的に広く睡眠研究に使用されています.国際睡眠障害診断基準に則し症状や疾患特徴が盛り込まれており,4〜10歳の子どもの睡眠障害をスクリーニングする保護者に実施する質問紙です.Ishiiらは,CSHQ-Jの妥当性を日本人小児で確認し,海外でのカットオフ値の41点(感度:0.80,特異度:0.72)と比較して日本の小児カットオフスコアが48点(感度:0.69,特異度:0.79)と高いこと,多変量解析でCSHQ-Jの総得点に有意に影響する因子は,子どもの年齢月齢,補填睡眠,子どもの併存症,親のピッツバーグ睡眠質問票高値であることを見出しました2).CSHQ-Jは高い内的整合性(クロンバックのα係数0.76)を有し,小児睡眠障害のスクリーニングに有用であることがわかりました.今後,小児診療の場で広く使われることが期待されます.3子どもの睡眠に関する筆者らの研究a 睡眠障害は子どもの行動・感情に大きな影響を与える Matsuokaらは,生活習慣,養育環境,身体疾患などの要因がどのように関連し,何が最も子どもの感情や行動に影響しているのかを明らかにするために,K市のある公立小学校全生徒の保護者372名に子どもの既往歴,家族歴,家族構成,習い事の有無,通塾の有無,家族の勤務状況などの基本情報とともにCSHQ-J,SDQ(strengths and diffi culties questionnaire)質問紙調査を実施しました.SDQに最も影響を与える因子として,CSHQ-J,性別,習い事の有無,母子家庭が関与していました3).子どもの行動・感情に睡眠が大きな影響を与えることが示唆されました.Sudaらは,8,689名の乳幼児健診データと5歳児の行動評価との相関を検討し,就寝時間の遅さと睡眠時間の短さが5歳時の不安,暴力,多動などの問題行動と関係することを報告しました4).発達障害のある子どもの睡眠を理解するために3Matsuokaらは,K市のある公立小学校全生徒440名(健常群395名,発達障害群45名)を対象に睡眠に関する質問紙を用いたアンケート調査を実施しました.発達障害群は,通級指導教室に通う知的能力障害のない45名でした.国語と算数の成績,子どもの就寝時刻,起床時刻,睡眠時間も両群間で有意差はありませんでした.しかし,CSHQ-Jの総得点は,健常群44.4(標準偏差7.1),発達障害群は47.7(標準偏差7.2)と有意に発達障害群が高く,睡眠時随伴症(パラソムニア)や呼吸障害は,発達障害群に有意に多くみられました5).興味深いことは,発達障害群の睡眠は年齢が上がるにつれて悪化する可能性が示唆されたことです.発達障害児の睡眠は,環境因以上に内因性の影響を強く受けていることが示唆されました.1 オーバービューII

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