251遺伝的素因睡眠障害は長らく,心理的要因や乱れた生活習慣が原因と信じられてきました.一方で,不眠症や睡眠時間の長さは,家族や民族により影響することもわかってきました.体内時計の発振を構成する主要な遺伝子多型は,朝型・夜型傾向や睡眠・覚醒リズム障害と関連し,双生児研究によると遺伝的影響は約50%とされます1).実際,イギリスのUKバイオバンクと米国の23andMe社で収集された130万人を超える個人のゲノミクスと不眠症調査データのメタ解析から,956個の遺伝子に関係する202個の遺伝子座が同定されました2).発達障害のある子どもの睡眠を理解するために哺乳類の体内時計においては,遺伝子の転写・翻訳を介したフィードバックループが2つ組み合わされた振動モデルが知られ,時計遺伝子として主にPeriod(Per),Cryptochrome(Cry),Clock(Clk),Bmal1(Bmal),Rev-Eerbα(Rev-Erb),Rorα(Ror)の6つの遺伝子がそのコアになっていると考えられています.3つのフィードバック機構として,①Per-Cryによるネガティブフィードバック,②Bmal-Clk-Rev-Erbによるネガティブフィードバック,③Bmal-Clk-Rorによるポジティブフィードバックのコアループ機構が考えられています.これらの時計遺伝子の変異や,遺伝子の発現リズムを制御する遺伝子上流に存在する制御配列(時計シスエレメント)に変異があると,概日リズムの周期や振幅が変わってしまいます.また,時計遺伝子産物のリン酸化リズムが知られており,転写フィードバックループに依存しない,リン酸化のみによる概日リズムの維持機構も知られています.さらに過眠症の1つであるナルコレプシーは,場所や状況を問わず,強い眠気に襲われる睡眠発作や情動脱力発作(カタプレキシー)といった特徴をもちますが,これは日本人に多く,日本2 子どもの発達ココがポイント!!睡眠障害には遺伝的素因がある.運動発達に遅れがある場合,レムアトニアが他の睡眠相に混在していることが示唆されている.知的障害を伴う疾患でナルコレプシー様の病態を呈することがある.社会性・行動発達では,メラトニンリズムや睡眠・覚醒リズムの調整が心身の発育に対するサポートになる.久留米大学小児科神経外来の調査では,発達障害(神経発達症)と診断された患者の4人に1人は,何らかの睡眠障害を示していた.II子どもの発達
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