2運動発達運動発達には大きく粗大運動と微細運動の発達があります.粗大運動は,生後3〜4か月に首がすわるようになってから,1人で歩くようになる目安が1歳前後というのが一般的です.微細運動は,生後3〜4か月でガラガラを振るようになってから,1歳頃には殴り書きやコップから水を飲む程度という獲得の流れがあります.粗大運動が獲得できるようになってから,微細運動が追いついていくような印象になりやすいです.これらがうまく獲得できないと,器用さ,身体のバランス,姿勢保持や支持,視覚機能等の感覚との連合などにつながっていかず,発達障害(神経発達症)を示すことになります.3知的発達知的障害を併存したKlinefelter症候群では,情動脱力発作のあるナルコレプシーの報告があります.また,Niemann-Pick病C型,Coffi n-Lowry症候群,Smith-Magenis症候群,Prader-Willi症候群,筋緊張性ジストロフィーや多発性硬化症,視床下部または上部脳幹を障害する占拠性病変などでも,ナルコレプシー様の病態を呈することが知られており,知的活動への影響がみられます7).視覚障害やAngelman症候群などで知的障害を伴う場合には,小児期に非24時間型(フリーラン)睡眠・覚醒リズム障害に陥りやすいことが知られています.およそ25時間設定となっている人体の体内時計周期は朝に太陽の光を浴びることで修正されますが,その修正の生理機構が何らかの理由で障害されていることが原因とされます.一方,脳の変性疾患や乳幼児期の脳障害・脳損傷では,昼夜の睡眠が入り乱れる不規則型が多く,さらに成人期になって認知機能の低6人ナルコレプシー患者のほぼ全員が,特定のヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA):HLA-DQB1*06:02,HLA-DQB1*06:02ハプロタイプをもつことが判明しています.また,注意欠如・多動症(attention-defi cit/hyperactivity disorder: ADHD)とナルコレプシーの関連性も指摘されています.それを示すように,ナルコレプシーとADHD特性の両方に関与する遺伝子を解析した結果,ドパミン神経関連遺伝子や免疫系・鉄代謝・神経細胞を支えるグリア細胞関連遺伝子において共通性が見出され,外的要因以外に体質が関わっていることが示されています3, 4).こうした発達の獲得時期は,大脳皮質の神経回路の形成とも連動しています.乳児期の運動発達と連動する形で,睡眠・覚醒パターン(昼夜の生活リズム)の形成が行われていきます5).睡眠は大きくレム睡眠とノンレム睡眠に分けられますが,生後4か月以降にレム睡眠期に身体の筋緊張が抑えられ,動くことができない「レムアトニア」と呼ばれる状態が出現します.運動発達に遅れがある場合,睡眠構築が未熟で,このアトニアが他の睡眠相で混在していることが示唆されています.セロトニンあるいはノルアドレナリンニューロンの活性が低下することで,レム睡眠要素がノンレム睡眠時に漏出し,網様体脊髄路を介した抗重力筋の姿勢維持が困難になることが示唆されています6).特にハイハイなどの目標到達のための移動運動(ロコモーション)ができるようになると,睡眠・覚醒パターンの切り替えや左右脳のバランスや使い分けが促され,レムアトニアが明確になっていきます.I 発達障害のある子どもの睡眠を理解するために
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