4社会性・行動発達脳幹アミン系神経系に異常をもつ疾患の研究から,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)や乳児期早期に睡眠・覚醒リズムが乱された場合に,乳児期以降に母子関係の障害をもたらし,対人関係の発達障害,環境への順応障害,同一性の保持といった自閉傾向がみられます9).発達障害のある子どもの睡眠を理解するために7下をきたした場合には,70%以上の割合で睡眠の断片化などの睡眠・覚醒リズム障害を呈します8).特にDown症候群などの先天性疾患や脳の変性疾患においては,一般成人よりも早期(40歳未満)にAlzheimer型認知症になりやすいことが判明しました.早期に睡眠障害を起こす原因として,甲状腺機能低下症や睡眠時無呼吸など,他の原因疾患と鑑別が重要です.乳児期早期以前にセロトニンおよびノルアドレナリンニューロンが障害されることで,運動障害や知的障害をきたすとともに社会性の障害を認めることがASD,Rett症候群,Down症候群などの先天性疾患や脳の変性疾患でも示されています9, 10).一方,社会的時差ぼけ(social jetlag)は,2006年以降提唱され,社会的な時間(学校の登校時間,試験の開始時間,就業時間,課外活動等)と実際の体内時計との不一致による心身の不調を指す用語です.学童期以降(特に小学校高学年や中学生),抑うつ症状や不登校,日中の眠気,短期的な学業成績の不振,非行や攻撃的な行動に影響を及ぼすことが知られています11).近年のIT技術の進歩に伴い,テレビゲームやスマートフォン,インターネットはこの社会的時差ぼけをさらに増悪させ,体調不良だけでなく,上述の発達の遅れとも強い関係があります.これは,色温度としての問題でもあります.テレビ,パソコン,スマートフォンが発するブルーライトは,可視光のなかで380〜500 nmと波長の短い青色の光を総称します.この周波数の光は脳を覚醒させます.色温度の高い昼光色(寒色系),昼白色(白系)より,色温度が低い電球色(暖色系)のほうが眠りを誘うことが判明しています.夜間に高照度,高色温度光に曝露されるとメラトニン分泌が抑制され,起床後に高色温度の光に曝露されることでメラトニン分泌が迅速に抑制されます.こうした照度や色味によるメラトニンリズムや睡眠・覚醒リズムの調整が,心身の発育に対するサポートになるとされます.また,乳児期後期に睡眠相の後退が生じると,10歳代までに強迫観念の発現がもたらされやすくなります.乳児期早期の睡眠・覚醒リズム障害は,脳幹や視床下部神経系の同調するネットワークの形成に影響を及ぼし,昼寝の残存や睡眠相後退につながっていきます.ノンレム睡眠の比率は,新生児から2〜3歳までの間で著しく増加し,その後,徐々に減少する傾向を示します.徐波睡眠と呼ばれる深いノンレム睡眠(特に第4睡眠段階)は50歳以後急激に減少します12, 13)(図1).このノンレム睡眠が質量ともに低下することで,認知機能や心身の機能維持の低下がみられるようになります.米国にはアーミッシュと呼ばれる18世紀に移住した先祖を共通にもつスイス−ドイツ系移民の地域集団がありますが,近代以前と同様の生活様式を基本に農耕や牧畜を行い,自給自足の生活を営んでいます.屋内の照明は,ほの明かりのろうそく光と自然光のみで生活リズムが成り立っています.共通の祖先をもつために特定の代謝疾患や先天性疾患の発生頻度が高いと指摘さ2 子どもの発達II
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