2624やさしくわかる胎盤のみかた・調べ方 第2版
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122Ⅳ章 臨床的にしばしば問題となる病態 常位胎盤早期剝離はいったん発症すると,妊産婦死亡や児の重症脳性麻痺など母児ともに重篤な合併症を引き起こす可能性がある.突然の腹痛(子宮収縮もしくは下腹部痛),性器出血と子宮の圧痛がみられ,母体救命のための適切な診断と対処が求められる.常位胎盤早期剝離の頻度は約0.5~1%程度とされ,常位胎盤早期剝離の既往のあることが最も危険度が高く,そのほか母体年齢や経産回数の上昇,妊娠高血圧症候群,高血圧合併妊娠,絨毛膜羊膜炎,前期破水,多胎妊娠,羊水過多,喫煙なども危険因子としてあげられる. 常位胎盤早期剝離は,正常位置(子宮体部)に付着している胎盤が,妊娠中または分娩経過中の胎児娩出以前に,子宮壁より剝離するもので,胎盤と子宮の内膜面との境界にある基底脱落膜の出血により形成された胎盤後血腫が増大して胎盤を圧迫・剝離することで生じ,子宮壁の内側を通じて性器出血(外出血)をみる外出血型と,剝離した胎盤と子宮の間に出血が溜まり外出血をみない潜伏出血となる内包型がある.いずれの型であっても母体からの胎盤血流が減少して胎盤機能は障害される.臨床診断および対処の妥当性を検討するために,病理学的検査が求められる. 臨床的に常位胎盤早期剝離が疑われる症例では,しばしば多量の凝血塊とともに胎盤が提出されるが,このことに惑わされることなく診断を行わなくてはならない.脱落膜内への出血や胎盤後血腫の形成による絨毛の虚血性変化や胎盤実質は圧迫されていることを病理学的に明らかにできないのであれば常位胎盤早期剝離とは診断しない.胎盤後血腫は母体面を見ただけではわからないことも多いので,必ず凝血の付着している部分を通る割面を観察する(図1).常位胎盤早期剝離(abruptio pla-centae/placental abruption)3

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