2632小児・成育循環器学 改訂第2版
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GranGranGranGranMitMitMyoMyoGolgiGolgiGolgiGolgiNucNuc12 心筋細胞は一生涯,全身に血液を供給するために,精緻に設計された,極めてエネルギー効率のよい微細構造を有する. 心筋細胞構成要素の構造的・機能的異常は重篤な心機能障害をきたしうる. ●特殊心筋細胞と固有心筋細胞 心筋細胞は心臓を構成する細胞群のうち約40%を占める(残りの大半は線維芽細胞である).心筋細胞は特殊心筋細胞(刺激伝導系細胞)と固有心筋細胞とに大別される.❶特殊心筋細胞 特殊心筋細胞は,興奮を自動的に発生するペースメーカ細胞と高速に興奮の伝導を行うHis束,右脚,左脚,Purkinje線維に大別される.ペースメーカ細胞は洞房結節,房室結節に存在し,静止膜電位が浅く,緩徐脱分極相(ペースメーカー電位)を有し,活動電位の立ち上がりが遅いなどの電気的特徴を有する.小型で筋線維に乏しく,興奮伝導速度が0.05~0.1 m/秒程度と非常に遅い.一方,His束やPurkinje線維に存在する細胞は大型であり,興奮伝導速度は2~4 m/秒と速いため,興奮は心室筋全体に瞬時に伝播する(Ⅱ‒E‒1:心電図検査(標準12誘導)の理論を参照).❷固有心筋細胞 心室の固有心筋細胞は筋原線維,ミトコンドリア,筋小胞体が豊富で,収縮・弛緩の機械的活動によって全身へ血液を拍出する主役となる.固有心筋細胞の長さは50~100μm,直径は約20μm程度である.ギャップ結合を介して伝播する興奮伝導速度は0.3~1 m/秒である.心室筋細胞においては,左右の心室や心内膜側と心外膜側との間に部位による構造上の大きな違いはない.一方,心房の固有心筋細胞は心室と比して小型でミトコンドリアの数は少なく,一般に横行小管は認められない.心房筋細胞内の核近傍を主として,直径0.3μm程度の特殊顆粒が存在し,心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド(ANP)を含んでいる(図1)1).循環血液量の増大など心房筋が伸展刺激をうけると,心房筋細胞からANPが分泌され,利尿が促される.心不全など病的心臓では,心室筋細胞にもANPを含む特殊顆粒が多数認められるようになる. ●筋原線維❶サルコメアの構成要素 心筋細胞内に存在する筋図1 心房筋の電子顕微鏡像Gran:特殊顆粒,Golgi:ゴルジ体,Mit:ミトコンドリア,Myo:筋原線維,Nuc:核.(Ogawa T, et al.:Endocr Connect 2014;3:R31—44)原線維は筋肉が収縮・弛緩するために特別に組織化された構造物である(図2).Z帯とZ帯との間をサルコメアとよび,機能的単位とみなされる.サルコメアの長さは弛緩時で約2.0~2.5μmである.最大張力を生じるためには,サルコメア長が至適な長さに保たれる必要がある.A帯には細いフィラメントと太いフィラメントとが存在し,太いフィラメントはA帯全域を占める.A帯の中央部にはM帯とよばれる横線が認められ,太いフィラメントを固定している.横断的にみると,それぞれの細いフィラメントは3本の太いフィラメントの中点に存在する.また,太いフィラメントを中心にしてみると,6本の細いフィラメントが1本の太いフィラメントを取り囲こむ六角形の構造パターンを呈している(図2c).❷太いフィラメント(ミオシンフィラメント) 太いフィラメントの太さは約15 nm,長さは約1.5μmである.ミオシン重鎖は頭部と尾部に区分される.頭部にはATPase活性をもつ部位とアクチンと結合する部位とが存在し,モータードメインとよばれている.尾部では2本のミオシン重鎖がらせん状に重合して,尾部が平行に並んで会合することで束状のフィラメントを形成する.頭部と尾部との移行部には,二組の必須軽鎖と調節軽鎖から構成されているミオシン軽鎖が結合し,ミオシン頭部の首振り様の運動を制御している(図3). ■b. 微細構造

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