2632小児・成育循環器学 改訂第2版
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第Ⅰ章abA心血管系の構造,発生と生理学右腹側図3 原始心臓管のルーピングと左右心室の形成管が左方に移動すると,原始心房に連続する左室が右後方に,流出路に連続する右室が左前方に位置するようになるため,右房と左室,左房と右室が交通する房室不一致の関係となる.一方,房室交差では,ルーピングが前方に凸に起こる結果,右室が左(上)前方に,左室が右(下)後方に位置するようになるため,左右心房と左右心室の位置関係にねじれが生じ,心室中隔欠損孔を介して交差する形態となる.❸心内膜床・房室弁の形成 心房と心室の接合部に形成される房室管(流入路)は,初期には心房から左室原基に接続しているが,ルーピングに伴い房室管が右方に移動することにより,左房‒左室,右房‒右室が接続する.同時に房室管では,心内膜細胞が心筋細胞との相互作用により形質転換(上皮間葉転換)(図4)し,間葉細胞として心内膜と心筋層の間の心ゼリー層に遊走して増殖し,心内膜床を形成する.心内膜床は房室管の上下から発達して癒合し,房室管を左右に2分割する.その後,房室管部の心内膜床および心筋組織のリモデリングおよび浸食により,薄い弁尖および弁尖を支える腱索と乳頭筋が形成され,僧帽弁・三尖弁が完成する(図4). 一側房室弁閉鎖・狭窄や心房・心室中隔の整列異常は,機能的単心室の原因となる.三尖弁閉鎖では,房室管の右方移動の障害により心房・心室中隔の整列が障害され,三尖弁口が右室に開口せず三尖弁が形成されないため右房‒右室交通は欠如し,右室への血流が減少して右室低形成となる.心房一次中隔心原基原始心臓管円錐動脈管頭側背側左右室左室心房尾側心内膜心ゼリー心筋外套横中隔ルーピング二心房二心室FHFCNCSHFPEO流出路右房左房房室管右室左室作業心筋原始心筋19図2 心臓大血管を形成する細胞群(Kodo K, et al.:Front Cardiovasc Med 2021;8:653244より改変)と心室筋性部中隔の整列異常によって左室型単心室(心房中隔が心室中隔より左方に位置)および右室型単心室(心房中隔が心室中隔より右方に位置)を生じる.また,心内膜床の形成不全により,房室中隔と房室弁の異常を伴う心内膜床欠損症(ECD)(房室中隔欠損症)が発症する.❹流出路・半月弁の形成 流出路は発生初期には,円錐動脈幹とよばれる1本の管状構造として右室原基に接続している.ルーピングの進行に伴い,円錐動脈幹は左方に移動する.同時に円錐動脈幹はいったん伸長し,その管腔に心臓の近位側に円錐隆起が,遠位側に動脈幹隆起が,それぞれ左右から形成される.その後,円錐動脈幹がねじれながら短縮すると,左右隆起はねじれながら癒合する.その結果,円錐中隔(漏斗部中隔)および動脈幹中隔が形成され,円錐動脈幹が2本の大血管,大動脈と肺動脈に分離され,心臓近位で肺動脈前‒大動脈後,遠位で大動脈前‒肺動脈後の「ねじれ」の位置関係となる.円錐(漏斗部)中隔と心室中隔膜性部が接合し,肺動脈下円錐は存続,大動脈下円錐は吸収され,正常な大血管‒心室関係が確立する(図5,6). 上述の流出路発生の各段階の異常により,両大血管右室起始症(DORV)(円錐動脈幹の左方移動の障害,円錐の存続・吸収異常),総動脈幹症(円錐動脈幹中隔の形成不全),完全大血管転位(TGA)(円錐動脈幹の回旋不全,円錐の存続・吸収異常),Fallot四徴(TOF)(肺動脈円錐の低形成,大動脈の整列異常)

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