2632小児・成育循環器学 改訂第2版
22/30

A胎児特有の問題2胎児心エコー表1 胎児のCHD発症リスクが高い妊婦1.家族歴 ・先天性心疾患(同胞,両親) ・心疾患と関連が強いと考えられている症候群2.母体疾患 ・糖尿病,膠原病,フェニルケトン尿症3.妊娠中のteratogenの曝露 ・薬剤(アルコール,アンフェタミン,抗けいれん薬,リチウム,ビタミンA,ワーファリン,アンギオテンシン変換酵素阻害薬,アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬) ・感染症(風疹ウイルス,サイトメガロウイルス,コク膜症の発見のため妊娠28~30週の,計2回行うことがわが国の胎児心エコーガイドラインで推奨されている3). レベル2検査は,レベル1検査で胎児心疾患,不整脈,心機能異常を疑われた妊婦に対し,胎児心疾患に精通した医師により行われる.CHD発症のリスクが高い症例において十分なレベル1検査が行えなかった症例も対象となる.診断名の確定にとどまらず,重症度の評価,出生後の経過予測が求められる.不整脈や弁膜症,胎児心不全など,妊娠経過中に病態変化や病勢進行の可能性のある疾患においては,定期的な検査の反復が必要になる. ●リスク(安全性) 通常の診断目的に使用されている超音波は,放射線と異なり人体に及ぼす悪影響がほとんどなく安全とされ,胎児診断にも広く使われており,これまでサッキーウイルス,パルボウイルス) ・放射線4.胎児異常 ・FGR,discordanttwins,NT陽性,胎児不整脈,心外異常320 先天性心疾患(CHD)の胎児診断においては,診断名の決定にとどまらず,重症度評価を行い,出生後の方針決定につなげる. 診断後のカウンセリングや出生後の治療計画においては,多職種によるチーム医療が重要である. ●心疾患の胎児診断の意義 先天性心疾患の治療成績の向上に胎児診断は大きく寄与している.動脈管依存性のCHD児は出生後動脈管が閉鎖すると状態が悪化するが,胎児診断されることにより状態の悪化前にプロスタグランジン製剤投与などの内科治療を開始できる.特に動脈管依存性体循環を有する疾患(大動脈縮窄,大動脈弓離断,左心低形成症候群など)では,ductal shockを呈することなく,安定した状態で手術を行うことができる.Tworetskyらは,左心低形成症候群において出生前診断例では出生後診断例より生存率が良好であったことを示しており1),完全大血管転位ではメタアナリシスにより,出生前診断が術前・術後の死亡率低下につながることが示されている2). また,卵円孔・動脈管狭窄を伴う完全大血管転位,卵円孔閉鎖を伴う左心低形成症候群,重症大動脈弁狭窄,重症Ebstein病,高度肺静脈狭窄を伴う右側相同などは,胎児診断に基づく計画分娩と出生直後の計画手術,カテーテル治療により救命可能となる. 出生直後の緊急治療を要さない疾患においても,胎児診断に基づくカウンセリングを行うことにより両親の疾患への理解を深め,出生後の治療に備えることができる. ●適応 胎児心エコー検査は,胎児心臓スクリーニング(レベル1)と胎児心臓精査(レベル2)に分類される. レベル1検査は原則としてすべての胎児が適応になる.胎児のCHD発症リスクが高い妊婦(表1)においては,特に慎重なスクリーニングが求められる.検査にあたっては異常が指摘される可能性について妊婦に十分説明し,同意を取得することが望ましい.検査時期としては,多くの疾患が発見可能となる在胎18~20週台前半と,妊娠後期に顕在化する弁FGR:胎児発育不全,NT:nuchal translucency(日本胎児心臓病学会:日本小児循環器学会胎児心エコー検査ガイドライン(第2版).日小児循環器会誌2021;37(S1):S1.1—S1.57)

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る