脂肪肝炎(metabolic dysfunction associated steato-hepatitis:MASH)に対する効果とともに概説する.AdipoR抗体作製戦略 AdipoRはG‒蛋白質共役受容体(G‒protein‒coupled receptor:GPCR)とは異なる配向性を持つ7回膜貫通型受容体である7).これまでにGPCRに対するモノクローナル抗体は2つしか承認されておらず,直接的に細胞内シグナルを制御する機能的なモノクローナル抗体は承認されていない.このように難易度が高い複数回膜貫通受容体に対する機能的なアゴニスト抗体取得のために,われわれはネイティブな構造を持つ免疫原と,三次元構造を認識する抗体スクリーニング系を採用することが重要と考え,免疫原と抗体スクリーニングにはヒトAdipoR1およびヒトAdipoR2を発現する細胞を採用した.また,AdipoR1とAdipoR2は98%の種間相同性を有するため,通常の動物免疫法では抗体産生自体が難しいという課題があった.このような場合,一本鎖可変領域(single chain Fv:scFv)抗体を発現するファージディスプレイ抗体ライブラリーからの取得が有用であるが,細胞は適用できないため,AdipoR1ノックアウト(R1 KO),AdipoR2ノックアウト(R2 KO)およびAdipoR1・AdipoR2ダブルノックアウト(R1・30浅原尚美1,山内敏正2,門脇 孝31.田辺三菱製薬株式会社 創薬本部2.東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科3.国家公務員共済組合連合会 虎の門病院基礎研究はじめに アディポネクチン受容体(AdipoR1,Adi-poR2)はアディポネクチンの糖・脂質代謝にかかわる多くの作用を仲介することが示されており1),肥満に伴う2型糖尿病などの代謝性疾患の予防や治療において有望なターゲットと考えられている.すでに,AdipoRの低分子アゴニストであるAdipoRonが開発され,in vitroおよびin vivoにおいてアディポネクチン様の効果が示されている2,3).2型糖尿病治療薬として複数の経口薬が承認されており,幅広い治療オプションが提供されているが,血糖コントロール,イベント抑制,安全性の面で不十分であることがしばしば指摘され,その要因の1つとして低い服薬実施率があげられている4,5).抗体医薬はその高い有効性と安全性に加えて商業的な大量生産技術の向上により,おもに経口薬で治療されてきた疾患への適用を拡大している.そこでわれわれは,経口治療薬が抱える課題を解決するために,半減期の長いAdipoR活性化モノクローナル抗体(AdipoRaMab)の開発を試み,月1回投与を可能とするIgGタイプのAdipoRaMab取得が成功したことを報告した6).本稿では抗体取得戦略,取得した抗体の抗糖尿病効果,さらに,まだ効果的な治療薬のない代謝異常関連アディポネクチン受容体を活性化する抗体を初めて取得5
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