劇症1型糖尿病の3つのサブタイプに分類されている. 緩徐進行1型糖尿病は,病初期はインスリン非依存状態にあり2型糖尿病と変わらない臨床像を呈するが,その後数年かけて徐々にインスリン分泌能が低下し,やがてインスリン依存状態へと緩徐に進行する代謝性疾患である1).従来の診断基準ではグルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase:GAD)抗体や膵島細胞抗体(islet cell antibody:ICA)の陽性を必須要件としており2),その病態には膵β細胞を標的とする自己免疫応答の関与が推察される.実際,筆者らはインスリン非依存状態にあるGAD抗体陽性糖尿病患者の膵生検で膵島炎を確認している3).また,緩徐進行1型糖尿病患者の約22%において,末梢血中にインスリン分子特異的インターフェロンγ産生単核球が検出されることを報告した4). 急性発症1型糖尿病と劇症1型糖尿病は,発症時に著明な高血糖に基づく糖尿病症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)に加えて,糖尿病ケトーシスやケトアシドーシスなどの急性代謝失調の状態をきたすことから診断は比較的容易である.一方,緩徐進行1型糖尿病の場合,糖尿病の発症早期の段階ではインスリン分泌能が保持されていることから,一般的に急性代謝失調をきたすことはなく(ただし,清涼飲料水の多飲59及川洋一,島田 朗埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科臨床研究・展開研究はじめに 緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive type 1 diabetes:SPIDDM)は,糖尿病の発症(診断)後,通常数年かけて徐々にインスリン分泌能が低下し,最終的にインスリン依存状態に至る膵島関連自己抗体陽性の1型糖尿病である.緩徐進行1型糖尿病の従来の診断基準に関していくつかの懸念点が指摘されていたことから,このたび診断基準の改訂が進められ,2023年1月に新診断基準が公開された.そして新診断基準では,既知の自己抗体のいずれかが種類を問わず陽性であり,かつ内因性インスリン欠乏状態にあることが確認された場合にのみ緩徐進行1型糖尿病(definite)と診断できるようになった.本稿では,診断基準の改訂が行われた経緯や新診断基準のポイントを中心に解説を行う.緩徐進行1型糖尿病とは 1型糖尿病は膵β細胞の破壊による高度なインスリン分泌障害を主病態とする糖尿病であり,通常は絶対的なインスリン欠乏状態を呈する.成因として自己免疫が考えられるケースを1A型,自己免疫の関与は証明できないが内因性インスリン欠乏状態にあるケースを1B型と分類している.さらに1型糖尿病は,発症様式別に急性発症1型糖尿病,緩徐進行1型糖尿病,緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の新診断基準8
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