2650臨床研究の歩き方
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7 日常診療のなかには多くのCQが存在し,「CQは見つからないはずがない」と強く明言している専門家,成書もあります.確かに普段から臨床研究のネタを探そうという気持ちで診療をしている専門医レベルの医師であれば,すぐにCQは見つかるでしょう.しかし,臨床経験が少ない研修医や若い医師がCQを見つけることは,決して容易ではありません.経験が浅いほど診療で疑問に感じることは多くなりますが,それらの疑問はすぐに臨床研究に結びつくCQには至りません.なぜなら彼らが十分な知識を   →CQ「疾患Xに対して,A薬とB薬のどちらが有用なのか」例2) 疾患Yの患者には,疾患Zが合併することが知られています.他の医師も経験的に疾患Zが合併しやすいと感じていますが,具体的な合併率は教科書にも記載されていません.   →CQ「疾患Yと疾患Zはどのくらいの割合で合併するのか」例1) 疾患Xに対する治療方法として注射薬Aと内服薬Bが存在します.A薬,B薬どちらも疾患Xに対する治療効果が確認されており,ガイドラインにも記載されています.ただし,その2つの優劣は記載されていません.臨床的疑問からはじまる臨床研究 患者さんに提供される医療行為は,一般的にそれが患者さんを健常な状態に導く可能性が高いという「根拠」に基づいて実施されています.evidence-based medicine(EBM)が「根拠に基づく医療」と邦訳されるように,医学の分野での「根拠」はエビデンスのことを指します.このエビデンスとは臨床研究の結果を意味しているため,すべての医療行為について臨床研究がなされ,その結果に基づいて行われることが理想です.しかしながら,十分な臨床研究が実施されずにエビデンスが「空白」のままで,長年の慣習や基礎実験のデータに基づいて実施されている医療行為も少なくありません.したがって,臨床研究を行う意義は,エビデンスの「空白」を埋めることであるといえます. 臨床研究をはじめるにあたって多くの指南書には,まずは日常診療のなかにある臨床的疑問〔クリニカルクエスチョン(CQ)〕を見つけるように記載されています.そして,そのCQを解決する目的で臨床研究が企画立案されるのです.では,どのようにしてエビデンスの「空白」につながるCQ,すなわち臨床研究のネタを見つければよいのでしょうか. 医師はこれまでに得た知識と自らの経験をもとにして診療を行っており,患者さんには自らがもちあわせている知識から最善と思われる治療方法を選択して提供します.治療方法を決定するのに自らの知識だけでは不十分と判断した場合には,教科書や診療ガイドラインなどからエビデンスという情報を補います.しかし,必ずしもすべての疑問が解決するわけではなく,可能な限り収集してもエビデンスが存在しないことがあり,そのような解決しない疑問こそがCQとなりえます.

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