4糖尿病・内分泌疾患の検査の読み方のコツと治療の際に大切なこと内分泌代謝疾患の検査結果を解釈する場合に,肝機能や腎機能など一般の生化学的検査と大きく異なる重要な点がある.それは,ホルモンは生体の環境やさまざまな因子によって調整されているということによる.つまり,あるホルモン値を解釈する際には絶対値そのものに加えて,その制御機構のなかで正常な反応なのか異常な反応なのかを判断する必要がある.そのためには,まずホルモン調節・作用機構を十分理解しよう.多くのホルモンは上位ホルモンからの刺激を受けて分泌されると同時に,調節因子からのフィードバックを受ける.たとえば遊離サイロキシン(free thyroxine:FT4)が低値であれば甲状腺機能低下症だが,甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)とともに解釈することによって,中枢性なのか原発性なのか,その責任病変が明らかになる.FT4が低値にもかかわらず,TSHが正常範囲であれば,それはTSH分泌(予備能)低下と判断し,中枢性甲状腺機能低下症と診断する必要がある.またFT4が上昇しているにもかかわらずTSHが正常範囲であれば,TSHが適切に抑制されていない状況であり,不適切TSH分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of TSH:SITSH)として,TSH産生下垂体腫瘍と甲状腺ホルモン不応症を鑑別する必要がある.またFT4が低下するとTSHは指数関数的に増加するので,その関係性も踏まえてTSHの上昇の程度が適切かを定量的に判断する必要がある.FT4低下の程度の割にTSH上昇が少ない場合には,視床下部性甲状腺機能低下症の場合もある.同様に,血中インスリン値やCペプチドは血糖値とともに解釈する必要がある.このように,ホルモン値自体は“正常範囲”であっても,その調節因子とともに分泌予備能の低下あるいは自律性分泌,分泌亢進の存在がないかを評価することが重要である.日常診療で遭遇するホルモン値の異常の多くは,疾患の原因としてではなく,さまざまな環境の変化に対する結果としての変化である.たとえば低栄養やステロイドが原因で起こる,遊離トリヨードサイロニン(free triiodothyronine:FT3)やTSHの低下は遭遇する頻度が高いが,これは甲状腺機能低下症ではなく適応的な反応(non thyroidal illness)であり,甲状腺ホルモンを補充すべきではない.また神経性食欲不振症では,成長ホルモン(growth hormone:GH)高値,インスリン様成長因子(insulin-like growth factor:IGF)-Ⅰ低値,ACTHやコルチゾール高値を示すことが多いが,これらも低栄養や低血糖に対する適応的反応であり,結果としての異常値である.同様に,ホルモン過剰のCushing徴候がないにもかかわらずACTHやコルチゾール高値をきたしていることは,ホルモン異常が低血糖やストレスに対する適応的な反応であることを示唆する. 2 ホルモン値は“正常範囲”であっても分泌異常と解釈すべき場合がある. 2 2調節因子とともに解釈しよう! 3 ホルモン異常と実際の症状が合致しているか確認しよう 3 ホルモン異常と実際の症状が合致しているか確認しよう 3 ホルモン異常と実際の症状が合致しているか確認しよう ホルモン異常と実際の症状が合致しているか確認しよう33
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