各論 見方を変えたら診断できた!① 背部の焼けるような痛み表1 検査所見■■WBC 6,200■■L■Hb 12.7 g■dL■MCV 94.0 fL■Plt ■■■CK 262 U■L■AST 32 U■L■ALT 18 U■L■LDH 254 U■L■ALP 260 U■L■■-GTP 16 U■L■TP 6.0 g■dL■Alb 4.1 g■dL■BUN 16.0 mg■dL■CRE 0.47 mg■dL■Na 142 mmol■L■K 4.0 mmol■L■Cl 102 mmol■L■CRP 0.01 mg■dL■■■■■118 mg■dL22×104■■L33 複数の専門家の外来を経て“怒鳴り込んで”ドアを開けて入ってきたというだけで,診断エラー学的には多くの認知バイアスが潜んでいる.そもそも,背中の痛みを訴える患者に対して,神経内科医,整形外科医,皮膚科医が診察を行い異常がないと判断された病態はどのようなものがあるか? ぜひ読者諸氏も一緒に思考のプロセスを共有されたい. 痛みは病歴聴取,特にOPQRSTの聴き方で決まると一般的にはいわれている.大学教員として日々医学生に指導をしていて感じることは「痛みの病歴聴取」は単にOnsetやPlaceなどと患者の医学的情報をもれなく集めるという単純な作業ではない.病歴聴取とは患者の訴えの細部やその時間経過による変化だけでなく,患者の心理的背景や精神的負担を踏まえたうえで,まるでその場所で一緒に付き添って映像化できるように再現ドラマをつくりあげていくようなものであると考えている.患者が訴える痛みは真の意味でどのような痛みであるのかを紐解くことがきわめて重要である.逆にこの作業で満足いくものができあがれば,痛みを主訴に来院した患者の診断の8~9割の仕事はおおむね終了してしまうように感じる. 今回の症例のように,自分の感じる痛みを理解してもらえない患者は気分障害(特に抑うつ傾向)に陥りやすい.文献的には難治性慢性疼痛患者はそうでない場合と比べて,4倍自殺率が高いとされる1).また多数の自験例でも,画像や採血検査の数値で示されない痛みは一部の医療者に理解されにくいことから,痛みに対して非常に強い執着をもっていることが多く,特別な配慮が必要である.筆者は,本書編集の志水太郎先生と志同じく行動を共にしてきているためか,非常に診断学的には同じようなアプローチをしていることが多い.志水先生の書籍のなかで,「患者の最初の30秒は口を挟まない,その30秒が患者の病歴の中心のテーマとなる」と図1 来院時すぐの背部の皮膚所見視診上は特に異常所見を認めない.Ⅱ検査所見 表1に示す.診断に至る経過
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