2679悩める痛みのケーススタディ
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· MRI施行時には,吸湿発熱素材下着は脱がせる.レクチャー 1週間後の再診では寛解し,原因がわかったことで非常に満足され終診となった.吸湿発熱素材下着着用によるMRI施行時の低温やけどの報告は多数ある4~7).筆者の個人的な調査では,放射線技師のなかではMRI施行時の吸湿発熱素材下着着用のリスクと注意点に関しては浸透しているようであるが,医師がそのことに興味をもち注意を払っているかということについては疑問が残る.また先行研究から報告されている原理を述べる.MRI検査時にRF磁場により人体内に温度上昇が起こると,体温調節のため肌から放散される水蒸気も多くなる.また吸湿発熱素材下着ではこれを蒸散させることなく衣類に吸水するため,通常の衣類より湿るので誘導電流が流れやすくなり火傷が起こりやすくなると仮説が立てられている.さらに製品の特性上,熱を保持する機能に優れており,重ね着を行うことで温度上昇はさらに容易に起こりやすくなる.わが国特有のMRI台数の保有事情と,世界的な日本の吸湿発熱素材下着の人気から,筆者らはこれを国際誌で報告して警鐘を鳴らした8).Ⅱ 各論 見方を変えたら診断できた!36 原因不明(筆者は未特定という言葉をあえて使う)で前医より紹介された患者は,不安と期待,誰にも理解してもらえないという絶望感や怒りなどの葛藤を伴って来院する.このようなときには筆者が気をつけていることは,表42)の4つのCである.原因が特定されていない疼痛診療の9割は,その痛みの再現ドラマを医師と患者で作り上げることができるかにかかっている.すなわち,患者の訴えをより忠実に再現理解できるような場の支配(Control)ができて初めて再現ドラマは構築可能である.診断学的には,思考プロセスに淀みがあっては的確な疼痛の診断ができない.攻撃的な患者が来院したり,また専門医やベテラン指導医がすでに診察をしていたとしても,なるべく心は平穏にバイアスにとらわれないようにClear mindを心がけている.得てして,紹介状やコンサルトにおける医師同士の責任の譲渡時にエラーは起きやすいものである.さらに,的確な情報を聞き出し,鑑別診断と仮説を構築しながら再現ドラマを患者-医師で共同で作成するためには,Compas-sionが必要である.「相手の立場に立つ」という言葉は,口にするだけであれば簡単であるが,実際に感得することは難しい.筆者はその代わりに,自分の家族だったら「どう判断して,どのように次の手を打つか?」とシンプルに考えることで,このCompassionは原因がその後の経過痛み診断のパール· 患者が原因不明の痛みを訴えている場合は,訴えに潜む真の主訴を引き出す.· ベテラン医や専門医を信じすぎることが逆にバイアスになる.答えは患者が知っている.原因未特定で紹介された患者

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