第2章代表的なメンタル障害に波及する機能異常もあり,またその機能異常の状態もその時々で,機能低下状態,機能亢進状態と反応が変動することがあります. これらがドーパミン神経系の機能に生じている場合を考えると,ドーパミン神経系が亢進しているときには,幻覚や妄想が生じます.機能低下では幻覚や妄想は生じないものの,健常時に存在するはずの意欲や興味が喪失されてしまいます. 機能が常に亢進しているタイプの器質性変化に生じる幻覚や妄想を改善するには,適切な量のドーパミン遮断作用がある抗精神病薬を予防的に継続して投与することで改善が得られるのですが,亢進と低下の機能変動があるタイプである場合,抗精神病薬が継続投与されると,ドーパミン機能が正常ないし低下の域に転じた状態では,薬剤によって機能はさらに低下となるだけでなく,錐体外路症状などの副作用が発現してしまいます.このように器質性の幻覚や妄想の治療は非常に難しいのです. 機能性と器質性の問題でそれぞれに生じる幻覚や妄想は,いずれも実際には存在しない知覚や認識に支配された言動が生じるため,客観的に病的な症状が存在することが捉えられます.これまでも説明しましたようにこれらの成因には違いがあることで生じる症状ですから,客観的に捉えられる幻覚や妄想は,受け取られる印象が若干違います. 統合失調症に生じる幻覚や妄想では,意識は清明であり,その内容が明確であること,そしてその存在に対して批判力が生じないことから否定できないことがほとんどです.幻覚や妄想に批判力が全く生じなかった場合では,幻覚や妄想を実際に存在した事実として記憶構築されてしまいます.そのため,病状が安定した後でも一度生じてしまった幻覚や妄想は訂正できず,いつまでもその幻覚や妄想に関連する訴えが続きます. 脳器質変化によって幻覚や妄想が生じる原因は,脳全体の機能問題に494.病的体験を有するメンタル障害機能性と器質性の幻覚・妄想の違い関連知識
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